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——それかいっそのこと玉鈴様に聞いて貰おうか。
玉鈴なら彼女の本心を知ることができるはず。
彩娟は玉鈴を慕っている。幼い頃、窮地に陥る彩娟を守ったのが玉鈴だった。誘拐されれば幽鬼に事情を話して見つけて貰い、毒を盛られ倒れれば龍の半身へと残された書物から毒消しを作り、呪われればそれを解呪した。
その過去があるため、彩娟は玉鈴を親のように思っている節があり、本来なら姉が入宮するはずなのに父親に泣きついて自分を推薦して貰い、後を追うように後宮入りした。見た目は大人びいていてもまだ十六歳の少女は家族が恋しいのかこうしてよく訪れた。
「僕がですか?」
前方から聞こえた涼やかな声に尭は面をあげた。
回廊の向こう側から青色の嬬裙を纏う玉鈴が不思議そうな表情で歩いてくるのが見えた。
「貴方達に隠し事はありませんよ」
「……いえ、羊淑妃です」
その名を聞いて、玉鈴は「ああ」と思い出したように言葉をもらす。
「隠していますね。色々と」
玉鈴は声を抑えて言った。視線が扉に向かっていることから中に彩娟がいることは知っている様子だ。
まさかの主人の反応に尭は目を丸くさせた。
「知っていたのですね」
「彼女、幽鬼がいないんですよね」
「幽鬼が?」
尭は自分の耳を疑った。玉鈴は彩娟には守護霊がいない、と言った。この世に生を受けた人間は誰しもが自分を守る幽鬼がついているものだ。それがいないとはどういうことだろうか。
「なぜでしょうか?」
「さあ? 彼女と会った時にはいなかったので分かりません」
「よく生きていられますね」
本当に、と玉鈴は同意する。
「本人の運が良かったのか、それとも別の理由か……。本人に聞いてもきっと覚えてはいないでしょうね」
そう言うと玉鈴は扉を開け、中へ入っていった。
扉が重い音を立てて閉まると同時に尭は踵を返し、明鳳の元へと向かった。
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