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「遅くなりました」
中へ一歩足を踏み入れた玉鈴は艶やかに微笑した。
「お待たせしましたか?」
「いいえ、私も先ほど来たばかりです」
彩娟は榻から立ち上がると拝礼しようとした。
それを片手で制すると玉鈴は再度、座るように促した。
彩娟が腰を下ろしたのを確認すると自分も反対側に座る。
「急に書簡を出してすみませんでした」
「いいえ、亜王様の耳に入る前に知れて良かったです」
途端、彩娟の美貌が歪んだ。まるで何かを堪えるような表情に、玉鈴は不思議そうに首を傾げた。
「どうかしましたか?」
「いえ、その……」
言いにくそうに彩娟は両目を伏せた。
「亜王様の耳に、入ってしまって」
ややあってから彩娟は答えた。
玉鈴は嘆息すると首を左右に振った。
「どうせ無理に聞いてきたのでしょう」
「ええ」
「内容は知っていますか?」
「いいえ、まだです」
それはよかった、と玉鈴は胸を撫で下ろした。
「名前は決して明かさないでくださいね。彼は直情家ですからその時の感情のままに行動に移してしまいます」
「分かりました」
「では、移動し——」
回路を慌ただしく駆ける足音が嫌に大きく聞こえた。
「——ようかと思いましたがここで話をしましょう」
玉鈴がいい終わるのと同時に扉が勢いよく開け放たれた。その勢いに負けたのか限界を迎えたせいか扉を支える蝶番が壊れて、左の扉が回路側に倒れた。
派手な音をたてて床に転がる扉を指差して明鳳はきっと目尻を釣り上げた。
「危ないぞ! もっと丈夫にしろ!!」
「貴方がもっと手加減すれば壊れなかったんですよ」
扉を壊されたことで玉鈴は苛立ちを隠さず吐き捨てた。これで明鳳によって蒼鳴宮を破壊されたのは何度目だろうか。八度目以降からは億劫になり数えるのは止めたため明確な数字は分からないがきっと両手両足の指では足りないはずだ。
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