羊彩娟

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 叱られて意気消沈しているかと思ったが明鳳は気にしている様子を尾首(おくび)にもださず、向かいに座る彩娟を睨みつけた。  射るような視線を受けつつ、彩娟は困ったように笑う。 「数日前からここに動物の死体が置かれていませんでしたか?」  こてん、と横に首を傾げると結い髪を彩る銀釵がしゃらりと音をたてた。 「犯人はお前か!?」  明鳳は勢い良く立ち上がると彩娟の肩を掴み、前後に揺する。それは秘密裏に調べているため、自分達以外では犯人しか知らないはずだ。混乱を招かないために口外することも禁じている。それなのに部外者である彩娟が知っているということは自分が犯人だと言っているようなものだ。 「違います!」  濡れ衣だと彩娟は慌てて弁解した。 「私はある妃から相談を受けたのです」 「妃?」  「はい。彼女は『柳貴妃様に嫌がらせをしたから呪われた』と私に相談しに来たのです」  彩娟は思い出すように視線を伏せた。  羊淑妃と柳貴妃は懇意(こんい)の仲であることは後宮内では周知の事実だ。困り事があっても柳貴妃が恐ろしい者はまず最初に羊淑妃の元を尋ねることが多い。  昨夜、すすり泣く侍女を伴った下級妃もそうだった。「相談があります」と彩娟を尋ねた下級妃は立場上、気丈に振る舞っていたが今にも気を失いそうなほど顔を青白くさせていた。聞けば、亜王の寵愛を得る柳貴妃を引きずり落とそうと夜な夜な屠殺した生き物を宮に置いていたが今朝から動物の鳴き声が聞こえるという。犬や狐など様々な動物が同時に鳴き叫ぶが、辺りを調べても該当の動物の姿はおろか毛の一本も見つからない。そのため、下級妃は声は自分達が殺した動物で、その声が聞こえるのは柳貴妃の怒りを買い呪われたせいだと考えた。
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