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「その、それで、えっと『罪人には法の下、適切な処罰を与えなければならない』から罰するんだ」
かつて父が言っていた言葉を口にする。父は亜王としての慧眼を養い、公平な判断をしろといった。
父は偉大な王だった。そんな父の言葉なのだから間違えてはいないはず。自分が正しいのだと自信を得た明鳳は偉そうに胸をのけぞらせた。
「分かりました。では、無事に犯人が見つかったら処罰の件は亜王様に一任します」
「あ、ああ」
思ったよりあっさりと玉鈴が頷いたので明鳳は呆気にとられた。てっきりいつものように作ったような完璧な笑みを浮かべて反論してくると思っていた。
「羊淑妃様」
「は、はい」
玉鈴の呼びかけに彩娟は慌てて返事を返した。
「ありがとうございます。彼女達は貴女を頼ると思っていました」
「いえ、私は別に何もしていません。感謝を言われるようなことはしていませんわ」
「後宮に貴女がいてくれてとても助かります」
褒められた彩娟はさっと頬を桃色に染めた。
「お役に立ててなによりです」
「もし、また件の妃が貴女の元を訪れたら『私は気にしていません』と、お話下さい」
「分かりました。そう伝えておきます」
彩娟は立ち上がり、頭を下げた。
「では亜王様、失礼いたします」
それに明鳳は答えない。右手を振り、無言で退室を促した。
「きちんと挨拶するのも礼儀の一つですよ」
すぐさま玉鈴の叱責が飛んでくるが明鳳はむすっとしたままそっぽを向く。亜王としてありえない態度に玉鈴が絶句していると彩娟がふるふると首を振った。
「いいのです。柳貴妃様」
「しかし」
「私も夜遅くに伺いましたもの」
困ったように彩娟は微笑んだ。
「では、良い夜を」
彩娟がそう言って房室から出て行こうとするので玉鈴はとめた。後宮の大火以降、夜間の見回りを強化していても羊家の姫君を一人で帰すわけにいかない。本人は一人で来たから大丈夫だと遠慮の姿勢を見せるが玉鈴は「駄目ですよ」と、入り口に控える尭を呼んだ。
「お見送りを」
「御意に」
彩娟は尭を見上げると嬉しそうに目尻を下げた。
「あら、いいの?」
「自分で良ければ」
ぶっきらぼうな尭の言葉に、彩娟はさらに目尻を下げる。
「お願いね」
では、と言葉を残して二人は房室を後にした。
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