幽霊宮の主

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 初代亜王が周囲の部族をまとめ、統一国家として名を歴史に刻み、千年の時が経つ。その長きに渡る年月は平穏とは程遠い時もあるが、それでも窮地に陥ればその度に亜国は不死鳥のように幾度となく蘇った。  しかし、今から十七年前、亜国全土を暗雲が立ち込む時期があった。誰しもが未来に絶望し、亜国は滅びるとまで言われ、歴史書に必ず記載される『亜国三大壊乱』の一つである。  一番に違和感に気づいたのは天候に機敏な一人の農夫だと書物に記されている。いつものように(すき)を手に持ち畑に向かった農夫は首をもたげる作物を見て「最後にいつ雨が降ったのだろう」と感じた。思えば、もう二週間も雨は降っていない。  放っておけばせっかく育てた作物が枯れてしまう。農夫は近くの用水池を見にいった。手間だが桶で水を組み、作物に与えようと思ったのだ。  しかし、用水池にあるはずの水はなく、農夫を出迎えたのは干からびた池の底だった。  流石に変だと農夫は思った。今まで、何度か干魃(かんばつ)に見舞われたことはあるが大人の背丈以上の深さがある用水池の水が全て無くなっているなどなかった。  農夫はすぐさま役人に事情を説明し、事態を緊急と判断した役人はすぐさま——明鳳の父である——先王に話を通した。  先王は原因を探るべく兵士と老師に川の上流を観察しに行くように命ずる。それまでは民には井戸を使うようにとの命を出すが頼みの綱だった井戸もすぐ枯れたことで亜国は傾き始めた。  畑にやる水がないため食物は育たず、家畜は死に絶え、口にする食料や水がないため人々は空腹に(さいな)まれた。時が経つにつれ、じわじわと身体を(むしば)む強烈な飢餓感に耐えきれず、少ない食物を求め争い、家族すら喰らう者がで始めた。  最初は小競り合い程度の小さなものだったが、時が経つにつれ増す飢えと渇きに(そそのか)され、それは大きな争いに発展した。
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