突然の来訪者

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 弟は傷付いてないだろうか、と心配するが紫雲はけろっとした表情で「嫌だね」と答えた。 「ずっといればいいのに」 「そういう訳にはいきません。私の目的は、あなたもよく知っているでしょう?」 「分かっているけどさ。それでも、ずっとここにいて欲しいんだよ」 「わがままですね」  懐いてくれるのは嬉しいけれど、いつまでも姉離れできないのは男子としてどうだろうか。幼くして実の姉を失ったので、このべったりも仕方ない気もするが、そろそろ自立して欲しい。  雪玲がどう叱責しようか迷っていると、ふいに腕にかかる重量がなくなった。 「途中まで持っていくよ」  雪玲の隙をつけたのが嬉しいのか紫雲はにっと歯を見せて笑う。その手には、先程、雪玲が抱えていた籠があった。 「悪戯はやめて、その籠を返してください」  籠を取り上げられたと気づき、取り返そうと手を伸ばす。籠の側面に指先が届く前に紫雲が手を高く持ち上げたため触れることは叶わない。 「……あら?」  ふと疑問に思う。秋終わりまでは目線は同じだったのに、今は視線を上げなければ紫雲の顔が見れない。 「背、伸びました?」  雪玲の指摘に紫雲は破顔(はがん)する。 「気付いた? 少し伸びたんだ」 「子供の成長は早いですね」  確かに、以前と比べて少年のような柔らかな声色には大人の渋みが混じりつつあり、肩幅も広くしっかりしてきた。まろやかな曲線を描いていた頬も肉が落ちて、大人っぽくなっている。 「あんなに小さかったのに」  感慨深いものを感じていると紫雲はむっと下唇を尖らせた。いじける仕草はあいも変わらず。成長しているのは外見だけで、中身は子供のままのようだ。 「歳近いのに大人ぶらないでよ」 「あら、紫雲よりずっと大人ですよ。私はあなたよりも年上なのですから」 「たったの二年じゃん」  たった二年。されど二年だ。紫雲より大人だと自負している。  そう胸を張って言えば紫雲は不満そうにしながらも特に言い返すことはぜず、籠を抱え直す。 「途中までだから」 「……叱られても味方はしませんからね」 「うん、いいよ」  二人は揃って回廊を歩き始めた。何気ない内容の会話を交わしながら歩いていると中庭にたどり着く。
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