突然の来訪者

7/16
前へ
/154ページ
次へ
「瑞王様を立たせたままで、私達だけが座るなんてできないじゃないですか」  雪玲の言葉に、優男がくつくつと喉を鳴らした。愉快そうに両目を細めて、唇に笑みを浮かべると傍らに控える大男の肩をバシバシと叩く。 「こいつは違いますよ。確かに瑞王様の姿絵とそっくりですので、よく間違えられますがね」 「いえ、そちらの方ではなく、あなた様が瑞王様ご本人ではないのですか?」 「私は違いますよ。それに私に様付けは必要ありません」 「自分より遥かに尊いお方を呼び捨てなどできません」 「面白いことをおっしゃる。我らは武官として白暘様の護衛を任された身、そのような心配は必要ありませんよ」  雪玲は大きな目を瞬かせた。 「白暘様ともう一人の方が護衛官で、あなた様が護衛対象のようのお見受けしますが」  おずおずと問いかけられたその言葉に、優男は目尻を鋭くさせる。口元から笑みを無くすと不遜な態度で腕を組み、雪玲を見下ろした。 「……なぜ、俺が瑞王と思ったんだ?」  見た目と反した荒々しい動作で椅子に腰を下ろす。その際、目の前に座る紫旦の存在が不愉快だったようで「退け」と短く命じた。  紫旦が慌てて立ち上がり、揖礼すると冷めた目で一瞥し、雪玲へと視線を向ける。 「あの偽りだらけの姿絵から俺が瑞王だと推測したのか?」  彼が帝位継承した年の帛画(はくが)を拝見したことはある。そこに描かれている人物は、冕冠(べんかん)から垂れた宝珠越しにも分かる勇ましい容姿をしていた。双眸(そうぼう)はまるで獣のように鋭く、太い鼻梁(びりょう)に、口元を囲うように黒々とした髭が生え、鍛えられた肉体を黒色の冕服(べんふく)に包んでいた。  それに対して、目の前の優男は正反対の容姿をしている。涼しげな目元にすっと通った鼻梁、武官の姿がとくと似合わない。男装をしている女性、と言われた方が納得できる風体だ。 「あなた様の履沓(くつ)が、他の皆様のと比べ、綺麗でしたのでそう思っただけです」  雪玲は揖礼を崩さず、応えた。瑞王の許可がないまま、姿勢を崩すことはできない。 「履沓だと?」  優男——翔鵬は自らの足元に視線を落とした。
/154ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加