突然の来訪者

9/16
前へ
/154ページ
次へ
 名指しされた白暘は声を落として喋り始めた。悲壮感漂うその姿は、一見すると心の奥底から悲しんでるようにも見える。前回よりも格段に演技が向上しているので、彼がだと知ってる雪玲でさえも騙されそうになった。 「我々はあなたを妃として迎えに来たわけではございません。その腕とその体質が必要なのです。……事の発端は、今から三年前、後宮で起きた事件からでした」  それは〝茶会毒殺事件〟といわれていた。  当時、皇后(こうごう)主催の茶会に参加した妃五名、第一皇子、第一公主、第三皇女の計八名がその日の夜、大量の発汗、痙攣、発熱などに苦しみながら死亡した。  すぐさま調査の結果、果物の砂糖漬けに毒が仕込んであることが発覚。  その後、使用された毒物を特定するため、果物の砂糖漬けを調べたところ鴆毒の反応があった。亡くなった八人の体液を調べると、同じく鴆毒の反応があり、調査にあたった奚官局は、これを鴆毒を使用した毒殺だと断定した。  管理不足の責で、茶会の菓子を用意した尚食局(しょうしょくきょく)がひとつ、司饎(しし)の宮女計二十四名を鞭打ち及び首切りの刑に処したが、毒物を盛った犯人は未だ見つかっていない。 (どういうことでしょうか)  話を聞きながら雪玲は冷や汗をかいた。  三人はその様子を恐怖からくるものだと判断したようだ。翔鵬はどこか嬉しそうに、護衛の二人は——片方は演技だろうけど——心配そうな表情を浮かべた。 「肝が据わっていても、さすがにこれは驚くのだな」  翔鵬の言葉に、白暘は「女性には辛い話ですから」と返すと心配そうな目で雪玲を見た。
/154ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加