一人の一生

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 大恋愛だったかと言われれば悩むところだ。彼女にとって僕は三番目の旦那だったのだから。僕と別れて彼女はバツ三であり僕はバツ一。時々、連絡をくれる娘から彼女は今現在も恋に生きているらしい。四十も半ばだというのに、華やかに生きているのだろう。 「でもさ、お前は再婚どころか恋人も作らないじゃん? 未練あんの?」  この話も耳タコな話だ。 「ないよ。全く」 「向こうが再婚したいって言ってきたら?」 「間違いなく断る」 「じゃあなんで恋人作らないのよ?」  ああ。同じ話を娘にもされた。たまたまコンビニの喫煙所で煙草をふかしている時に声をかけられて。 「お父さん、休憩中?」 「あれ? 学校は?」 「テスト期間中だから早いんだよ」 「じゃあ早く帰って勉強しないと。お母さん煩いだろ?」 「お母さん、教育熱心だからね。だから息抜きにサボっているお父さんに声をかけました」 「怒られるだろ?」 「大丈夫だよ。お父さんと会っても別に怒らないし、お母さんも恋人のほうに夢中だから」 「へぇ。また再婚するのかい?」 「まさか。三回離婚したらもうしないでしょ? お父さんはそんな話ないの?」 「ないよ。興味ない」 「ふうん。お母さんとだったら?」 「ないね」 「相変わらず枯れているね。でも奥さんくらい見つけなきゃ、お父さん、孤独死しちゃうよ?」 「いいんだよ」  娘は悲しそうな顔をした。僕は灰皿に煙草を押し付けて火を消す。 「ねぇ。なんでずっといい人いないの? ずっとお父さんが一人なの心配なんだけど……」 「あのね、お母さんは恋多き人だけど、お父さんは良くても悪くても離婚したとしても一生のパートナーに選んだ人は一人で充分なんだ。そして自分の行き方に後悔もしていない。心配は嬉しいけど、お父さんの人生はお父さんの人生であり、子供の人生は子供の人生で、お母さんの人生はお母さんの人生だ。誰にも否定できるものじゃないんだよ。一人だから不幸なんてことはないよ」  盛大にため息を吐く娘。 「そんな理屈ばかり言ってるからずっと一人なんじゃないの? お父さんがいいならいいけどさ。また見かけたら声をかけるね」  背を向けた娘は、近くにいた友人の背中を追う。それを見送ってからもう一本煙草に火を点ける。
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