一人の一生

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 何十年も連れ添った夫婦に僕らが敵うことはない。別れを選び、顔を合わせることももうないのだ。そんな話は酒の席でしみったれた失敗話として披露するしかない。だとしても後悔はないのだ。  僕は赤ら顔の同僚の顔を見つめながら烏龍茶を呷る。煙草を吸いたいが、二人の飲み会は喫煙所に向かうタイミングが難しい。 「お前はなんで、あの嫁を選んだんだ?」  これまた今まで何回も繰り返して聞かれた話。もちろんそれに対する回答も同じ。 「一目惚れだったんだよ。それに理由があると思う?」  一目惚れした人と数年であれ、一緒にいたのだから自慢できる話だろう。 「分からないなぁ」  同僚は首を傾げる。当然だ。恋も結婚も理屈じゃない。結婚も離婚も感情で決めた。そのあとのことも。顔を合わせなくて口を利かなくても、僕は一生のパートナーに君以外の人を見つける気はない。誰にも理解されないとしても、僕の心はそれでいいと判断している。  何十年も連れ添った夫婦に僕らを理解するのは難しいだろう。ただ、数年別れた僕ら夫婦にも答えはある。  それは僕らが導き出したものだ。否定も理解もされる謂れはない。  その話の締め括りも同じ。 「人様に理解されるようなら彼女は選ばなかったよ」  夫婦の形なんて、その夫婦にしか分かりゃしないんだからさ。
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