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まずは、冷え切ってしまった彼女を温めてあげなくてはと、空いているカウンターの奥の席に二人で座った。
暗がりでは分からなかった肌の色が店内の照明で鮮明になる。
薄く白い彼女の頬と鼻は爛れた様に真っ赤で、唇は紫色。全身をカタカタと震わせていた。
彼女はまだお酒は飲めない。
それを知っているから、自分の分のビールと熱いお茶をお願いした。
目の前に置かれた湯気がたちのぼる湯呑みを、細く白い指先が包み込む。そっと持ち上げて、ふぅ、ふぅ、と息を吹きかけてから、ちびりと口にしている。
寒いから、早く体の中に温かいものを取り入れたい気持ちは分かるけれど、彼女は猫舌なはずだ。きっとまだ、そのお茶は熱いに決まっている。
案の定、口をつけた湯呑みはすぐに離されて、テーブルの上へと戻った。
よほど熱かったのか、外へと出した舌先が真っ赤になっている。
あの時聞いたあいつの言葉を思い出して、なんだか無性に、寂しくなる。
僕がそんな姿を微笑ましく思いながらも見ていると、彼女が気が付いてこちらを向いた。
「……ありがとう、ございます」
ようやく気持ちが落ち着いたのか、彼女は照れた様にお礼を言う。
「お腹は空いてる? 適当に頼むか」
「あ、はい。お願い、します」
遠慮がちに、だけど、もうすっかり気を許してくれた様で、ずっと抱えていたバックを足元の荷物入れへと彼女は置いた。
「前にも、ありましたよね。こういうこと」
思い出す様に、彼女は店内の壁のメニューを虚な目で見ながら困った様に笑っている。
「そうだな」
「どうして、いつもあたしが悲しい時に、現れてくれるんですか? 先生」
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