あの頃

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 たったそれだけ。だけど、僕は無性に彼女のことが気に掛かって、両親のことを調べて見た。  そして、家庭調査票を開いて驚く。記された住所と父親、母親の名前に見覚えがあった。  生年月日を見て確信する。彼女が、僕の友人の子供だと分かった。  仲の良かったあの頃の思い出が、蘇ってくる。ずっと忘れ去っていたはずの思い出が、鮮明に色濃くなる。  彼女の父親トオルと僕は仲が良かった。小学生の頃からいつも一緒に遊ぶ仲だった。そんな僕たちが中学校へ上がると、誰とでも人懐こくて良く絡んでくる女の子が一人現れた。  それが、彼女の母親、レミ。  ハキハキと物事をきっぱり決めて、僕やトオルのことを引っ張っていってくれる、そんなレミが頼もしく思えて、いつもそばにいた。好きになるのに、時間はかからなかった。  それから、僕だけ高校が二人とは別になってしまって、レミと会う機会は格段に減った。トオルとも連絡を取ることがなくなり、疎遠になってしまっていた。  あの時、僕がレミと付き合っていたのかどうか、今となってはよくわからない。ただ、そばにいて笑い合えていればそれで良かった。そんな風に思っていたのに、偶然目にしてしまう。  二人が手を繋いで仲良さげに歩く姿。影でキスをしている所。レミは、僕ともトオルとも関係を持っていたことを知った。あの頃にきっと、二人の間に彼女が出来たんだと思う。  僕だけが、レミに惚れているんだと気が付いた。  当然、それをきっかけに、ますます僕たちはバラバラになった。僕はもう二度と二人には合わないと、その時心に決めたはずだった。
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