湯気

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『トオル、レミとは離婚したのか?』  僕の問いかけに、トオルは目を背けて、パチパチと音を立てる薪ストーブへ視線を落とした。 『……とっくにだよ。子供が出来たから結婚したようなもんだったし。レミはすぐに他に男作って、何年もしないうちに出て行ったよ』 『……じゃあ、娘はお前一人で?』 『まぁな。父親と娘だと、なかなか難しいな。とっくに離婚は成立していたんだけど、娘には言い出せなくて。最近ようやく伝えることができたんだ』 『……そうか』 『で? お前は先生やってんの? すげぇじゃん』  暗いのはトオルの柄じゃないことは分かっている。すぐに話題を明るくしようとするのは目に見えてわかりやすかった。だけど、笑顔の裏に悲しみを隠していることくらい、親友の僕にはお見通しだ。 『他に、なんか言わなきゃないこと、ないか?』  ケホケホと咳き込むトオルの顔色は明らかに悪い。若い頃に遊びで手をつけた煙草は今だに手放せないんだろうと、さっき後ろ姿のジーンズのポケットからはみ出たタバコの箱を見て感じた。 『もしもさ、俺になんかあったらさ、娘のこと……なんて、お前に頼めることじゃねぇよな。悪い。なんでもない』  薪ストーブの炎が店の中を暖かく照らす。  外は次第に細やかな雪を落としはじめた。 『風邪、引くなよ』 『ああ、お前もな』  『じゃあ、また』そう言って手を上げた僕に、トオルは『また』とは言わなかった。ただただ、寂しそうに笑っていた。
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