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運命の時間が刻一刻と近づいて来る。
失敗はできない。もし爆発させてしまったら百メートル以内にいるすべてが破壊されるのだ。もちろん恵介たちも無事では済まない。
待機しているゴンタロウから通信が入った「来ました。あの通りから歩いて来る少女が人間とは違う歩幅で接近してきます。白いのワンピースの子供です」
見れば、十歳くらいの少女が人混みにまぎれて、大臣に化けたアンドロイドに向かって進んでくるではないか。
「間違いないか!」
「ええ、明らかに人間ではありません。表面は蝋細工で加工したまがい物です」
恵介は部下に指示を出した。
「それ以上は進ませるな! 冷凍ガス噴射!」
だが予想外のことが起きた、少女ロボットの運動性能は高く、ガスをよけて浴びなかったのだ。
すぐさま恵介は銃を構えてロボットの前に立ち、その目を狙った。
(ターゲットを補足できなければ、爆発しないはず!)と、思ったのだが、なかなか命中しない。
ロボットは恵介に走り寄って、障害を除くために彼を襲った。
あわやというときに、歩行者にまぎれさせていた他のゴンタロウの兄弟アンドロイドが駈け寄り、少女型ロボットの首をもぎ取った。
恵介が用意したアンドロイドは一体だけではなかったのだ。
こうして、電子頭脳を失った少女ロボットは動きを止めた……。
一般人の犠牲者はゼロ、何故なら周囲百メートルにいる群衆、全員が自衛隊の変装だったからだ。
だが中に爆発物がある以上は安心できない。すぐに冷凍ガスで少女の身体は冷凍処理され、爆発物処理班の活躍で解体された。
心残りなのは、それを操る犯人が分からない。
ゴンタロウによると、少女型ロボットは自立型で、電波で操縦するタイプではないという。
「くそお!肝心の犯人については謎のままか!」
そう悔しがっていると、ゴンタロウの通信から景子の声が聞こえた。
「そうでもないよ、地下鉄のE1の出入り口から、慌てて逃げるオッサンを発見! ただいま追跡中!」
「なにい! 景子なにしてる! 危ないからやめろ!」
学校を休んで仕事を手伝えとは頼んでなかったのだ。
「もうすぐ追いつく!」
「待ちなさい!」
その瞬間、遠くで爆発音が轟いた。
「景子ぉおおおおおお!」恵介は頭を抱えた。
*
ゴンタロウの中で、景子は犯人が持つカバンが爆発する前に、再度、時間を巻き戻した。
ゴンタロウはパワードスーツの機能があり、ロボット三原則で人間と戦うことができなくとも、中に人間が入ればサポートすることができる。善悪の判断を操縦者に任せることで安全装置が外れるシステムになっている。
今回はゴンタロウの中にいて景子は命拾いした……。
もし、ゴンタロウの装甲がなかったら、爆発の威力で時間を捲き戻せなかったろう。
時間が戻って、再度退治したときは捕らえるのは簡単だった。戦闘用アンドロイドと人間では相手にならない。――まず相手がスイッチを入れる前に、カバンを取りあげて、回し蹴りで相手を昏倒させた。
「ん!」
白髪頭のかつらがずれて、犯人の正体が分かった。冴えない茶色の背広の中年男と思いきや、それは変装、まだ二十代の青年だ。
青年によると、闇バイトで少女ロボットを指定の場所に運ぶだけで金になると、ケータイの呼びかけに応じただけで、こんな大きな事件になるとは考えもしなかったらしい。
「追いかけられたら、あのカバンの赤いスイッチを押せば逃げられると教わったんだよ!」
と、青年は取調室で泣き出すだけで、あとは本当に何も知らない様子だ。こうして事件は終わった。
*
が、景子が父親から大目玉だったのは言うまでもない。
おまけに学校で補習と追試を受けることが決定し、留年することはなかったが、今回の事件では彼女は不満だった。
もし景子が来ていなかったら、闇バイトで動いていた青年も、その青年を捕えていたであろう警察官や周辺の人々も犠牲になっていたに違いない。
景子は思った。
(でも真犯人にたどり着けなかったんだから、今回は痛み分けだわね……。こんちくしょうめ!)
警察の捜査で海外から犯人がスマホで指示を出していたらしいのがわかったが、そこから先は不明だ。どうも国家機関が絡む犯行らしかった。
「くっそお! すっきりせんわ!」と、追試を受けながらつぶやく景子だった。
了
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