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声のデカさで何とか押し切る。(視点:恭子)
さて、と一番上の選択ボタンを押す。
「まずはコンセプトを選んで下さい。劇画、肖像画、アニメ、モダン、変わり種ではキュビズムなんかもありますね」
「んー、取り敢えず普通のやつ」
よくわからない時は普通が一番。だけど綿貫君は首を傾げた。私とは反対の側に。そりゃそうか、ぶつかっちゃうもの。
「普通って、具体的にどういうイメージですか?」
具体的な普通とは。
「えーっと、変じゃないやつ」
「変って……?」
顔を見合わせる。う、近いわね。ええと、と綿貫君は体を引いた。考えることは一緒ね。
「すみません、俺は恭子さんにとっての普通とか変を知りません。だからそれぞれのイメージ図を見ながら選びましょう」
ふむ、と腕を組む。私の普通。私の変。確かにイコール皆の普通や変ってわけではないものね。悪事は駄目。人を傷付けるな。そういう、共通認識を持てるものならともかく、個人の感性に左右されることは普通や変が千差万別になるのね。
「成程。よくわかったわ」
「何がです?」
「普通と変が伝わらないの」
あぁ、と綿貫君は表情を和らげた。そして、一緒に選びましょう、と笑い掛けてくれる。もう、今日は心臓が疲れる日ね。
「リアルと二次元、どっちがいいですか?」
「えっと、じゃあリアルで」
まあ本物の葵は目の前にいるのだけど。本人はこの上なくリアルね、動くし喋るし。
「では肖像画にしましょう。次に特徴を入力します。葵さんについて、恭子さんが思うこれは外せないって点を英単語で入れて下さい」
「英単語ぉ? しばらく触れていないから出て来るかわからないわよ」
「検索がありますし、中学生レベルでも生成出来るから大丈夫ですって。あ、最初にジャパニーズウーマンって入れた方がいいですよ」
しばし画面を見詰める。はい、と綿貫君の方にスマホをずらした。
「やって」
「ちょっと!」
「だって今、綴りに自信が無いなって思っちゃったんだもの。うん、私が入れて欲しい特徴を伝えるから、君が英訳して打ち込んで!」
「俺が英訳係ですかぁ?」
「私より二つ年下なんだから、その分英語から離れた時間も短いでしょ。よろしくっ」
笑いかけると、しょうがないなぁ、と渋々スマホを手に取った。すぐに打ち込みを始める。ジャパニーズウーマンって入れているのかしら。
「じゃあ特徴を仰って下さい」
目の前の葵を見詰める。そして思い付くまま言葉を口にした。
「痩身。黒髪。ボブカット。細い。スレンダー。美人。こんなところかしら」
「半分以上、痩せているって情報でしたね」
「ちゃんと髪型の情報と、美人って入れたわよ」
さて、と生成ボタンを綿貫君が押した。どうぞ、と差し出される。
「あら、なかなかいいじゃない。ね、葵、咲ちゃん。私が作った葵のイラスト、送ってもいい?」
ほぼ俺がやったんですけど、と小声の苦情が届く。全力で聞こえないふりを決め込んだ。
「……ちょっと待て。今、作業中だ」
「うーん、後は何を入れれば良いでしょうか」
「えー、見てよー」
「よく自分が作ったみたいに言えますね……」
無視! 葵が顔を上げた。
「まあ待てって。どうせだったら皆で一斉に見せっこしようぜ」
「あ、それはいいですね。誰のAIさんが一番上手に葵さんを描けたか比べてみましょう」
「うーん、そうか、そうね。いいわ、じゃあ私ももう何枚か作ってみようっと」
葵と咲ちゃんは再びスマホへ視線を落とした。私は綿貫君を見遣る。黙って私にスマホを差し出していた。
「次はアニメチックなイラストにしましょうか」
「自分でやりなさい!」
「嫌だ! 英単語が出て来なくて恥を曝すに決まっているんだ!」
「検索しなさいってば!」
「そこまでするのは面倒臭い!」
「そうやって人間、どんどん堕落していくのですからね!」
「いいじゃないっ、君の脳は活性化されるのだから!」
「恭子さんが退化するでしょ!」
「綿貫君がフォローしてくれるのなら大丈夫よ!」
「信頼どうも! そこまで言われたらやりますよ!」
「ありがとね!」
がっくりと項垂れる彼の頭を、腕を組んで堂々と見下ろす。勝った。さあ、作業を再開するわよ! 何か、とんでもない発言をした気もするけどお互い気付いていないからいいか!
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