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生成結果、葵と咲の場合。(視点:恭子)
(作者注:本ページはグロテスクな画像を含みます。苦手な方は読まないか、画面を遠ざけてご覧下さい。)
さあて、とお代わりのコーヒーを注いできた葵が席に着いた。
「恭子、咲ちゃん。イラストは出来上がったかい」
その問いに、お互い深く頷いた。傍らの綿貫君が溜息を吐く。結構大変でした、と咲ちゃんは小さく首を振った。
「葵さんの特徴を打ち込み過ぎて、何度エラーになったことか」
そんなにたくさん何を入れたのかしら。愛情の重さが溢れ出ていて、ちょっと怖い。
「恭子さんなんて情報のほとんどが、痩せている、でしたよ」
綿貫君が負け惜しみかのような告げ口をした。
「あ、コラ。ちゃんと美人って入れたでしょ」
「あと変なマニアックな情報も足していましたし」
「マニアックじゃないわよ! 季節柄、丁度いいと思ったから!」
ほほう、と葵が唇を歪める。
「スケベは咲ちゃんだと思っていたが、恭子よ。お前、一体私にどんな格好をさせたんだ?」
ほらぁ、すぐに食い付いてくるんだから! いや、綿貫君も葵の反応を見越した上で話を振ったのかしら? そのくらい、私達はお互いを知っているものね。ちょくちょく嫉妬しちゃうくらいにはさ。それはともかく。
「違うってば。スケベなコスプレなんてさせていない。言ったでしょ、季節柄って」
「十一月末ってなんかあったか。いい肉の日くらいしか思い付かねぇぞ」
その台詞に全員の顔が引き攣る。各々、AIのイラスト生成にあたり特徴を打ち込んだ。そして、絶対に『いい肉の日』というキーワードを入れ込んだら碌な生成結果にならない、と察したのだ。葵が咳払いをする。
「そんじゃまあ、お互い送ってみるとするか。まずは私からいこうかね。ふふん、びっくりするんじゃねぇぞ?」
「あら、自信満々じゃない。お手並み拝見ってところね」
「絶対にびっくりするからな。心臓が止まらないよう気を付けろぉ?」
喜々として葵がスマホをタップした。画像が送られて来たみたいね。開いた私達は。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
「ひっ」
「わぁぁっ」
三人揃って悲鳴を上げた。
「ななななな、何よこれっ! 気持ち悪いっ!」
「背筋がぞわぞわするのです!」
「何作ってんすか葵さん!」
「だから言っただろ。びっくりするって」
にやついていた葵は、だけどなぁ、と真顔になった。
「作った瞬間、私だって心の中でツッコミを入れたぞ」
葵が自分のスマホをちらつかせた。また画像が目に入り悪寒が走る。
「化け物じゃねぇか!!」
自分で生成しておきながら葵はツッコミを入れた。
「こ、これは怖いです……夜道で会ったら泣いて逃げます」
咲ちゃんも顔を引き攣らせた。葵大好きっ子な咲ちゃんにも受け入れがたいらしい。むしろだから余計に無理なのかも?
「ただ、一応髪型とか色味とか、顔の輪郭はさ。葵っぽいのよね。ちょっと闇が滲んでいるだけで」
「目がやべぇのよ、目が。人間が本能的に避ける発想だぜ。超怖ぇ」
「そんな怪物を産み出したのはあんたよ」
「AIだっての」
私の指摘に首を振った。うん? でも葵が自分自身をイメージして生成ボタンを押したのだから、作ったのは葵じゃないの? だけど形にしたのは確かにAIだ。この場合、作者は一体誰になるのかしら……?
微妙に引っ掛かりを覚える。何だかテレビのニュースか特集で、こんな議論を繰り広げているのを家事の片手間に聞いた気がする。まさか自分が同じ内容で頭を悩ませるとは。
「だけどこいつは形になっただけまだマシだぜ」
葵の言葉で我に返る。二枚目の画像が送られてきた。そこにはこう記されていた。
《センシティブな内容が生成されたため、表示することが出来ません。》
「産み出すことすら出来なかったよ!」
葵が両手でテーブルを叩いた。
「あんた、一体どんな単語を打ち込んだのよ。っていうか自分のスケベなイラストを作ろうとするって、どんだけ自分が好きなわけ?」
やや引き気味に指摘をすると、違ぇよ、と鼻を鳴らした。
「普通の単語を打ち込んだだけ。それなのに何でエロい絵を生成しようとしてんだよ!!」
「あんたの内面も読み取られたんじゃない? この単語をこの順番で入れる人はスケベだって」
「余計な学習をしてんじゃねぇ!! このドスケベAI!!」
馬鹿みたいなツッコミを入れつつ憤る葵を、まあまあ、と咲ちゃんが宥める。荒い息を吐きながら、私は以上だ、と葵は締めた。
「では次は私のAIさんですね」
咲ちゃんがスマホを操作する。一枚目です、と画像が送られてきた。
「何故か三人になってしまいました。おまけに頼んでいないメガネをかけています」
「両脇が葵かしら」
「真ん中の兄ちゃんはどこのどなただ。どっから湧いて出てきた」
「知らないわよ……」
感想を言い合いながら画像を見詰める。よく見ると手足と体が溶け合って大変なことになっている。首や髪も微妙におかしい。う、と葵が口許を押さえた。
「ごめん。折角咲ちゃんが作ってくれたのに、何かずっと見ていると気持ち悪くなってきた……」
「いえ、別に。私が単語を入力しましたが、絵を描いたのはAIさんなので気にしません」
咲ちゃんは私と違ってはっきり割り切っているらしい。そういう考え方もあるか。
「そうか、わかった。じゃあ遠慮なく言う。この人間になり損ねたクリーチャーについての感想交換は終わりにしよう。私のイメージ図だと思うと余計に、う、吐き気が……」
「流石にそこまで赤裸々に語られると多少傷付きます……」
む、咲ちゃんが描いたのではないと割り切っていてもショックは受けるのね。では二枚目です、と次の画像が送られた。
「おお、人間になったな」
「髪型と正面向かって左側の撫で肩ぶりは葵さんじゃないですか」
綿貫君の意見に、確かに、と頷いた。
「比較的上手に出来たと思いますが、如何でしょう」
胸を張る咲ちゃんに対し、私は必死で唇を噛み耐えていた。何この絶妙に垢抜けない感じ。いや、可愛いわよ。可愛いけど、物凄く感情が薄そうと言うか何も考えてい無さそう。それが葵なのだと思うと気が抜け過ぎていておかしくなる。ただ、ツボにハマったのは私だけらしい。そもそもAIのイラストと本人をごっちゃにして考えているから変な笑いを見出してしまった気もする。ううむ、私は現実とAIをいっしょくたにし過ぎなのかしら。なかなか難しい問題だわ。
「まあ私の産み出した化け物よりもよっぽど出来がいいと思う。なにせちゃんと人型だからな」
「えへへ、上手に葵さんを作れて嬉しいです」
うん、やっぱり気になる。葵を作れてってワードは絶対におかしいって! イラストの話だとわかっていても、私はどうしても気になってしまう。むしろ私がズレているの? 何だかんだ言いながら、イマドキの感覚では葵や咲ちゃん、綿貫君が普通で私だけが違っているの?
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