しれっとマニアック。

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しれっとマニアック。

 綿貫君にお願いしながら作った画像を皆に送る。 「まず一枚目。リアルなやつね」 7be63c7a-95cc-47a8-9a90-b4b2eee1c69b  うーん、と葵が首を傾げた。 「髪型は私だけどさ、顔は全然似ていないな。っていうか何でどの生成でも髪型だけは上手くいくんだ」 「ボブって入れたら出てくるもの」 「あ、私もボブで入れました」 「当然、私もだ」  恐らくは、と綿貫君が腕を組む。 「髪型とは普遍的な情報だからだと思いますよ。例えば、痩せている、という情報だけではどのくらいの体型かAIによって判断が別れます。餓死寸前なのか、実際の葵さん程度なのか、それだけでも大分変わります。だけど髪型は、文字通り型が決まっている。学習して出力する内容にバラつきが出ないのです。ボブカット、と入れれば全部これが吐き出される」  おぉ~、と三人揃って拍手を送る。 「まあ俺も知らないんですけどね。多分そうなんじゃないかな、と推測しただけで」 「「「いや知らないんかい!」」」  いかにもそれっぽく語っていたのに! 「橋本の方が詳しいので気になるようなら訊いてみてください。俺にAI生成サイトを教えてくれたのもあいつですし」 「でも綿貫君だって理系じゃないの」  その指摘には、いやいや、と手を振った。 「理系って括りでは一緒ですけどね。俺は理学部、橋本は情報学部。薬品を使って実験していた俺とプログラミングを勉強していたあいつでは分野が全く違います。経済学部の学生に、文系なんだから法律も知っているでしょって言うようなものです」 「あー、成程。それは失礼したわ」  いえいえ、と微笑む彼に、たださぁ、と葵が人差し指を向けた。 「今、さも知っているかのように喋っちゃったのは、じゃあ君の格好つけってことでいいかい?」  その言葉には、はい、と頭を掻いた。 「お見通しですか」 「まあな。とは言えはこっちが信じちゃうくらいの説得力には満ちていた。思考のやり方として、勉強になったよ」 「そんな、照れますね」  へへっ、と笑っている。次よ、と私は二枚目を送った。 84de75f7-4251-4314-a40c-993d1b8bf73c 「誰だよ」 「葵」 「髪型だけは合っているって話をした直後に別の髪型のやつを送るんじゃねぇよ! 綿貫君の推測が完全に茶番じゃねぇか!」  言われてみれば確かに。 「そうね、その通りだわ! そして次の一枚はちゃんとボブよ!」 「何でそれを先に出さなかった。話、聞いていないのか?」 「だけど、もう一枚ボブを出してさ。綿貫君の説が補強されてから別の髪型を出されていたらもっと微妙な空気になったんじゃない? それなら直後の一枚で思い切り良く介錯した方が清々しいわよ」 「って言うかさ、そもそも綿貫君もこれも生成を手伝ったんだろ。推測が間違っているのは最初からわかりきっていたんじゃねぇか」  葵の指摘に、格好をつけるのに必死でした、と頭を掻いた。その答えに、ふっと葵が顔を背ける。 「綿貫君が格好をつけようとするなんて、珍しいね」  咲ちゃんは小首を傾げた。 「皆にAIを紹介したからかなぁ。それとも綺麗なお三方に囲まれているからかなぁ。うーん、言われてみれば俺はいつでも自然体なのに何でだろう」 「不思議な日もあるものだねぇ」 「ねぇ」  どうにも咲ちゃんと綿貫君が絡むと時間の進みがゆっくりになる。茶飲み友達、と評するのが一番しっくり来るな。 「しかしどっちかっつーとこのイラストは咲ちゃんっぽいだろ。私、こんな守ってあげたくなるような表情は浮かべないし」  いや、あんたは田中君に告白されてフラれた時、ずっとこんな顔をしていたわよ。なんならもっと不安定だった。だから一生懸命支えたし寄り添った。案外、葵の核心を突いているイラストだと思う。髪型と輪郭は全然違うけど。うーん、さっきの化物といい、結構内面を見透かされているようで落ち着かないわねぇ。 「私もこんなにロン毛じゃないですよ。可愛くもないですし」 「いいや、咲ちゃんは可愛い。誰が何と言おうと私は譲らん」 「葵さん……」  超能力者はぽっと頬を染めた。もし田中君がいなかったら咲ちゃんのお相手はどうなっていたのかしら、なんて。婚約したばかりの子に向ける妄想じゃないか。 「そんで、結局何でボブって入れたのにロン毛がお出しされたんだ?」 「だから俺を見ないで下さいよ。詳しくないって言ったでしょ」  ふむ、と葵は腕を組んだ。 「まあいっか。そんなこともあらぁな」  全員、何となく肩透かしを食った気分になる。咳払いをして私は三枚目を送った。ad93776b-d580-4549-b162-799368c6082d 「私から一番遠い」 「何で!? ボブじゃない!」 「髪型が一緒だろうが、こんな運動部のマネージャーを務めていそうな明るさは私に微塵も無い」  ううむ、流石に自己評価は適切ね。 「この葵さんは、空き地で野球をやろうぜって誘いそうです」 「サッカー部のマネージャーを務めていて、ミスした後輩にしゃんとしろっ、ってハッパをかけそう」 「元気が無いなら肉を食えって勧めそうね」 「……どう考えても私じゃねぇじゃん……そんでこれ、背景はクリスマスか?」  やっと気付いたわね。そうよ、と頷く。 「あー、それで季節柄、か。……いやお前、絶対よからぬことを考えたな」  察しがいい。もし想定通りのイラストが生成されたらネタにしようと思ったけど、うまくいかなかった。だったら全力でとぼけよう! だって証拠が無いものね! 「えー、何のことぉ? 背景がクリスマスになっただけじゃなーい」 「てめぇ……」  ほほほ、残念だったわね。葵さん? と咲ちゃんが不思議そうな顔をする。 「だってイラストは普通の格好をしているものねぇ~」 「んにゃろう……」  さっき、ゴッツイ私を散々笑ったお返しよ! まあ正確に言えば返そうとしたけど生成出来なかった、ってところなんだけど。 「さ、次が最後の一枚!」  送信ボタンを押す。行って来い、ラストワン!e44ed684-862d-46e7-96cb-0ece57f13e4c 「ボブはどこ行った!?」  その言い回しじゃあ、無断で席を外した外人を探しているみたいね。 「またロン毛になっちゃった。いやー、不思議なもんだわ」 「そんで綿貫君の仮説は完全に外れじゃねぇか!」 「言わなきゃ良かったってこんなに思うこと、あるんですね! はっはっは! もう笑っちゃいますよ!」 「この葵さんも可愛いですよ?」 「どこに私要素があるんだ咲ちゃん!? 別人にも程がある!」  葵は天井を仰いだ。これもクリスマスですか、と咲ちゃんが微笑む。 「あと一か月を切っているから試しに組み込んでみたのよ」  しれっと答える。途端に、嘘を吐け、と葵が私を睨み付けた。 「嘘?」 「お前の狙いはわかっているぞ恭子。イラストの私にサンタコスをさせようとしたな?」  綿貫君は、そんなことだろうと思いました、と頷いた。何と、と咲ちゃんは目を丸くする。 「違うわよー。サンタコスをさせるなら、クリスマス、じゃなくてサンタって入力したもーん」 「白々しいんだよバカ。ただ入れる単語を間違えただけだろ」 「知らないもーん」 「あー、ムカつく……」  苛立ちを見せる葵の脇で、そうか、と咲ちゃんが拳を握った。 「その手がありました。何故私は今の今まで思い付かなかったのでしょう……! イラストの中でしたら葵さんにも恭子さんにも佳奈ちゃんにも、好きな格好をさせられます! メイドが、私の理想のメイドさんが、二次元とは言え生み出せるのですね!! ううん、二次元だからこそ三次元に無い魅力がある!」 「無いのかあるのかどっちだよ」 「……物凄い急発進でテンションが上がったわね」  呆れる私達を他所に、咲ちゃんは身を乗り出した。 「綿貫君、後で君が使っているAI生成サイトの詳しい使い方を教えて。君くらい使いこなせれば、私はやましい、もとい、自分の理想を形に出来る」  急激に精神年齢も上がった気がする。おおう、と綿貫君は引き気味に応じた。私は葵と視線を交わす。  イラストの我々にスケベな格好をさせる気だな。  やっぱりそうよね。咲ちゃん、ムッツリだもの。  最早オープンだろ。  どっちにしろ、困ったものね。  テレパシーなんて無くても気持ちは伝わる。二人揃って項垂れ溜息を吐いた。サンタコスなんて可愛い方だった。一体、咲ちゃんの操るAIはどんな成長を遂げるのか。ただ、ピンク色の方向へ進むのは確実だな、と私と葵は確信した。せめて本人にはバレないように楽しんでね……。
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