「「「さっき!?!?!?!?」」」

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「「「さっき!?!?!?!?」」」

 それで、と何とか三人の会話に横入りをする。 「結局どうするの? 恭子さんが好きって自覚したんでしょ。告白、するの?」  言葉を飾らず真っ直ぐに問う。だって綿貫君はいつでも真っ直ぐだから、こっちも同じように向き合わなきゃね。でも彼のことだから照れちゃうかな。そう気になったのだけど、意外にも表情を変えなかった。顔はまだ赤いけど。 「いや? 告白はしないよ」 「えっ」  即答されて、こっちの思考が一瞬止まる。 「告白は、しない」 「えぇっ!?」  声を上げてしまった。田中君は目を見開き、聡太は唇を噛んでいる。 「だって恭子さんと俺が釣り合うわけないじゃん。あんな素敵な人と、俺だよ? 告白なんて申し訳ないよ」  どんだけ自意識が低いんだ! 恭子さんが高嶺の花なのは確かだけど、一方で自分を低く見積もり過ぎじゃない!? 「申し訳ないって、そんなことないと思う」  何とか平穏を装い私は応じた。 「だって、考えてもみてよ。綿貫君が誰かに告白されたら、どう感じる?」 「人違いですって答える」  バカか! 「その返しは失礼過ぎるよ!」 「だって俺に告白なんて、人違い、勘違い、見間違い、のどれかだ。有り得ない」 「何で!?」  綿貫君は薄い笑みを浮かべて肩を竦めた。ちょっと余裕を醸し出している。今じゃ無いだろ! その余裕! 「俺はモテたことが無い。モテる理由も無い。性格は真面目なだけで至って普通」  いやいやいやいやいや、という三人分のハモリが聞こえた気がした。第一、自分で自分を真面目って評している時点で変人だ。 「見た目も特徴は無い。女性が苦手で緊張しちゃう。恭子さんのおかげで多少は改善されたかも知れないけど、それでも一対一ではコミュニケーションを取るのも難しい。そんな俺に惚れる要素、無いでしょ。だから告白は人違い、勘違い、見間違い、のどれかだ」  律儀にもう一度繰り返した。ええと、フォロー、フォローを! 「だけど君にもいいところはたくさんあるよ。ほら、それこそ真面目だし。相手の気持ちをしっかり考える優しさもある。聡太と真っ先に仲直りしてくれたように友情にも厚い。細かい気配りも絶やさないし、そういう部分に惹かれる人はいると思う」  褒めちぎると、ありがとう、と頭をかいた。 「でもさ」 「ん?」 「滅茶苦茶褒めてくれたけど、高橋さん、俺の告白を断ったよね」  それこそ今!? 「そこ、引っ掛かる!?」 「だって説得力に欠けちゃうよ。散々持ち上げられたけど、結局この人は俺の告白を断ったんだよなーって」  反論をしようと息を吸い込んだのだけど。 「……確かに、そうだね」  何も思い浮かばなかった……。 「……ごめん、綿貫君。むしろ傷付けた?」 「傷は付いていないし、褒められて嬉しくはあったけど。考えは変わらないなぁ」  私は隣の聡太の肩を叩いた。交代、と呟きジャスミン杯を煽る。我ながら浅はかだった! 「しないの? 告白」  聡太も本当に直球を投げ込むなぁ」 「しないよ。恭子さんに悪いから」 「それだけじゃないだろ」 「流石橋本」  ん? どういう意味? あー、と今度は田中君が腕を組んだ。 「そっか。七人の空中分解を気にしているのか」 そういうこと、と聡太が応じる。綿貫君は何度も頷いた。成程、と私は手を叩く。 「告白成功の可能性が薄い上に、失敗したら皆の関係がおかしくなっちゃう。それもあって告白しない、と」  うん、ともう一つ綿貫君は頷いた。えー、と私は不満を声に込める。 「恭子さん、君をフッたくらいで関係を壊すような人じゃないと思う。あの人の器を舐めすぎじゃない?」  いやいや、と今度は田中君が勢いよく手を振った。 「関係は壊さないだろう。むしろ気を遣って何も無かったように振舞ってくれる。ただ、あの人も隠し事が苦手だからしばらくは気まずさが態度に滲み出ると思う」  あんたもバカか! 両想いだってわかっているのに、何でマイナスの方向へ進むような情報を提供するのよ! 恭子さんの実態はともかく、今は前向きに進めさせるべき場面でしょうが! もうちょっと考えてから喋れ! 「ほらぁ、そういうのは嫌なんだよ。俺が勝手に惚れて勝手に告白して、皆の仲をぎくしゃくさせる。そんなの絶対やだ。だから告白はしない」  睨み付ける私の視線に気付いた田中君は、眉を寄せていたけれど、あ、と唇だけを動かした。散々綿貫君を後ろ向きにさせてから気付いても遅いわ! 「まあでも俺らは気にしないぞ? 綿貫と恭子さんが変な感じになっても、いつも通り接するし」 「その時点でもう気を遣わせているじゃん。やだ」  言わんこっちゃない! こうなったら彼は梃子でも動かない。 「うむ、まあ、その特異な状況も葵さんならからかって楽しみそうだし」 「あの人はそういうデリケートな部分には触れないだろ。どうした田中。お前、葵さんとは似た者同士で物凄く互いの理解度が深かったんじゃないのか。何であの人を見誤った」  田中君ってば、リカバリーしようと必死になったばっかりに、今度は致命的なミスを犯している! あと綿貫君も田中君と葵さんの関係性をしっかり把握しているんだね。まさかそっちも告白というひと悶着を経ているなんて想像だにしていないだろうけど。 「いいんじゃない? 綿貫が告白をしないって決めたのなら、それでさ」  聡太が急に場を収めた。どういうつもりか、思考を巡らせる。多分、綿貫君を前向きな方向へ説得するのは諦めたんだ。そして、次に聡太が誘導しそうな話題は、うーん、情報収集かな。 「うん、俺は告白しない。恭子さんへの片思いを胸に仕舞い、これからも仲の良い先輩と後輩として過ごしていくつもりだ」  今更だけど割り切りが早い。おまけに決心は固い。どれだけ君の心は強いのさ。多くの人は、好きだから告白したい、関係性が変わるのは怖いけどどうしても想いを伝えたい。そんな風に悩むんだよ。君みたいに、諦める決断をスパッと出来る人は珍しいね。凄いよ、綿貫君。悲しい決定だとは思うけど。 「ちなみにお前、いつから恭子さんを好きだったんだ?」  お、予想通り聡太が情報収集を始めた。少なくとも今日、告白をしようという方向へ綿貫君の考えを変えるのは無理だ。だから今後に備えて、色々聞きだしておこう。同感だよ、聡太。やっぱり私達、気が合うね。なんて、ちょっと照れちゃうかも。あはは。 「今日」 「「「今日!?!?!?!?」」」  流石に誰もが想定していなかった。絶叫が三重に響く。 「なんなら、さっき」 「「「さっき!?!?!?!?」」」  どんだけタイムリーな悩みなの!? そんで、さっき惚れたのにもう告白はしないって決意しているの!? よっぽど思い切りがいいのか、ある意味人間ができすぎているのか。自己評価の低さがぶち抜け過ぎているのか。はたまた、こいつもただのバカなのか。  おい、と聡太が曖昧な笑みを浮かべる。珍しい表情だな。 「さっき、惚れたの?」 「あぁ」 「飲み会で、とか?」 「自覚したのは、まさにそのタイミングだ」 「……好きになったばっかなの?」 「あぁ」 「それで、告白しないって決意しているの?」  あ、私と同じところが引っ掛かったんだ。そりゃそうだよね。 「うむ。揺るがぬ決意を胸に抱いた」  無駄に格好いい言い回しだね。何でさ。 「マジ?」 「マジ」  聡太が再び唇を噛んだ。さっきは笑いを堪えていたのだろうけど今度は言葉が見付からないのかな。え、と今度は田中君が口を開く。あんたは余計な発言をしないように! 「じゃあ今日の夜まで、恭子さんのことをなんとも想っていなかったのか?」  その質問には、うーん、と腕を組み首を傾げた。 「疑似デートを二回した。恭子さんと二人きりで、色々な話をたくさんした。その中で、考え方が似ているな、とか、良い物事の捉え方だな、とか感じる瞬間がたくさんあった。知らなかった恭子さんをたくさん見た。素敵な人だって心底思った。魅力がいっぱい詰まっているなって出会って二年越しにようやく気付いた。人間として、俺はあの人を改めて尊敬した。ただ、好きかもって気付いたのはさっきだ」  ……それまで、まだ惚れた内に入っていなかったの? 素敵で魅力的、なんてもう完全に好きになっていると思うけど。 「今日の昼にさ。何気ないやり取りの中で、恭子さんが小首を傾げて俺を見上げたんだ。その瞬間、心臓を鷲掴みにされた」  ちょろいな。結局、あざとい仕草にやられてんじゃん。田中君は首を傾げた。聡太は肩を震わせている。戸惑い。爆笑。感想はバラバラだけど、間違いなく私達は揃って、ちょろい、と思ったに違いない。 「だがその時点ではまだ確信はしていなかった。たまたま可愛い動作に動揺しただけかも知れないと自分を落ち着かせた」  動作って。仕草と言いなさいよ。ただ、彼自身もまだ冷静ではあったんだ。 「しかし夜の飲み会で、恭子さんの過去の恋愛事情を聞かされた。俺はやたらと気になって、いっぱい質問をぶつけていた。その時気付いたんだ。俺、恭子さんを好きじゃね? と」  ふう、と綿貫君は一息ついた。そしてさ、と先を続ける。 「直後にさっき話した失態を犯し、会は解散となって居たたまれず、こっちに来た。あとは知っての通りだ。以上」  話が締められた。田中君が、お疲れさん、と綿貫君にジョッキを差し出した。 「ありがとう」  聡太もジョッキをぶつけた。そんな三人が私に視線を送る。慌ててジョッキを握り、乾杯に加わった。 「乾杯っ!」  田中君の発声後、揃ってお酒を煽る。……いや、何に対しての乾杯? 綿貫君の恋心? 告白しないって決意しているけど。うーん、本当に今後、どうしよう。そもそもさ。  疑似デート、続けるの? 両想いの二人で。
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