二神三人夜行散歩。(視点:葵)

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二神三人夜行散歩。(視点:葵)

 素っ頓狂な声を上げた私と咲ちゃんに、たまには夜の散歩もいいだろう、と神様は微笑み掛けた。 「い、いいんですか? 城の神様が城を離れて」 「平気だよ。そもそも毎年、神在月には一カ月、出雲に行くから外しているし」  わお、と咲ちゃんが手を叩く。 「本当に八百万の神々が集合するのですね。そこで恋の縁を結ぶのですか」  まあね、と神様は肩を竦める。 「でも昔より遥かに人口は増え、逆に神の数は減ったからさ。縁結びはあまり盛況ではないんだ。放っておいても、マッチングアプリとかを使って人間同士、勝手に縁を結んでくれるし。本当に結ばなければいけない人達以外、最近は神々も手を付けていないよ」  ん、と今の言葉が引っ掛かる。 「逆に、こんな時代でも結ばなきゃいけない人ってどういう連中なんですか?」  その質問に、人差し指を唇に当てた。 「詮索はしない方が君のためかな」 「……わっかりましたー」  一体どんな答えなのか。知るのも怖い話らしい。さて、と神様が立ち上がる。 「コンビニ、行くよ。久し振りに買い出しだ。支度をするから恭子は健二にメッセージを送ってしまいなさい。連絡は早いにこしたことはない」 「わかりました、ありがとうございますっ。しばしお待ちをっ」  改めて恭子がスマホへかかりきりになる。それにしても、限りなく神様に不釣り合いな言葉だな、買い出し。 「やっぱりいいですよ、神様。欲しいものを言ってくれれば私らが買って来ますから」  そう提案したのだが、いや、と首を横に振った。 「一緒に行く。言っただろう、夜の散歩もいいものだって。丁度、風が冷たくなってきた季節だ。酔いと火照りと適度な興奮を抱えて出歩くのには丁度良い」 「しかしこっちが気を遣うなぁ」 「真面目だね、葵。えらいえらい」  頭を軽く叩かれた。少し気恥ずかしい。と、次の瞬間。瞬きをする間に神様の服装が変わった。白のパーカーに青のデニム。随分カジュアルな格好だ。はい、と武者門さんが手を上げる。 「私も同行してよろしいでしょうか」 「いいよ」 「いや無理だろ!!」  気楽なやり取りへ、反射的にツッコミを入れる。 「あなたが町中をうろついたら騒ぎじゃすまない! まず間違いなく警察が来るし、なんか、ほら、ネットに動画とかあげられちゃいますよ!」  一生懸命止めた、これまた直後。 「……」  武者門さんは筋骨隆々のおっさんの姿になっていた。神様はご自分を指差している。 「私、神」  咲ちゃんに輪をかけて何でもありだな。ツッコミを入れる必要も最早無さそうだ。だって大概の無茶は通るみたいだから。やれやれ。 「送信、完了! お待たせしました!」  スマホから顔を上げた恭子は、あら、と目を丸くした。 「神様、随分ラフですね。武者門さんも、すっかりおじさんになって」  感心の仕方がちょっと変だ。似合う? と神様がひらりと舞う。長い髪が回転に合わせて揺れた。 「そりゃあもう、イケメンです」 「健二にも気楽にそう伝えられればいいのにね」  途端に恭子は口を噤んだ。どんだけ素直な反応だ。 「さて、それでは行こうか。コンビニへ」 そう言って神様は先頭に立って出発した。すぐ後ろに武者門さんが続く。その背中を咲ちゃんが小走りに追い掛けた。ねえ、と不意に恭子が私の背中をつつく。くすぐったいがな。 「この場合、神様を先に歩かせるのは失礼じゃないのかしら。ほら、大名行列だってお殿様は真ん中でしょ。下々のものが先を歩くべきだと思うわ」 「行っちゃったんだからいいんじゃねぇの。むしろ考え込んでうろちょろされる方があの神様は面倒臭がるぜ」 「そういうものかしら……」 「もし怒られたらその時なおそう。さ、私らも行こうぜ」  そうして三人を追う。階段のところで、咲殿、と武者門さんが振り返った。 「頭にお気を付けを。今度は兜を貸せませぬ故」 「わかりました。注意します。ありがとうございます」  私にも忠告して欲しかった、と恭子がぼそりと呟いた。確かに、と思ったまさにその瞬間。 「あ、痛っ」 「あらっ、武者門さん。大丈夫ですか?」 「どうにも油断致しました。普段より身の丈が小さいため、いけると思ったのでありますがいけませんでしたな」  咲ちゃんだけ過保護に扱ったしっぺ返しじゃねぇのかな、なんてぼんやり考える。 「はっはっは」 「はっはっは」  そんでもってとうとう咲ちゃんは武者門さんの笑い方まで真似し始めたよ。五歳児くらいに見えて来たな。 「お前もあれくらい素直になれば?」  精神的ちびすけを指差し恭子を振り返る。 「残念ながら、私、大人なのよね」 「咲ちゃんだって大人だぞ」 「中身はいよいよ幼女よ」 「やっぱお前もそう感じたか。ま、気持ちが緩んでいるのはいいことだ。とくにあの子にとってはな」  私の意見に、それもそうね、と恭子は肩を竦めた。咲ちゃんが幸せいっぱいならこっちも嬉しい。しおり作りも、今日は妙な雰囲気になっちまったがこれからたくさん楽しもうな。  揃って城の外に出る。最上階では割と風が吹き抜けていたが、地上では幾分勢いが弱かた。四階建てくらいの高低差でも多少は変わるのかね。こちらです、と今度は武者門さんが先頭を切る。咲ちゃんがついて歩いた。神様は私と恭子の傍に収まる。ねえ恭子、と鈴のような声が響いた。 「はい」 「君、好きな人と二人きりで夜のコンビニへ行く時、交わす何気ない会話とか好きなタイプ?」  こりゃまた随分的確な指摘だ。親友は目をひん剥いた。 「何でわかったんですか!? また心、読んでます!?」 「ぶはは、お見事。流石神様!」 「あ、外では神ではなくジンと呼んでくれ」  意外とまんまな偽名だな。わかりました、と笑いを堪えて返事をする。 「ジンさん、ナイスです。大当たりだろ、なあ恭子ー」  親友は両手で頬を押さえていた。暗くてよく見えんが、顔面から火を噴きそうなほど真っ赤になっているに違いない。 「ちなみに今は心を読めないよ。城の外では出来ることが限られるんだ」 「じゃあ何でわかったんですか!? 私がそういう状況とやり取りが好きだって!」 「好きそうだなーって何となく思った」 「大当たりじゃないですか! 見透かされているにも程がある!」  あぁ、そういえば一つ思い出した。 「お前、大学の時に新山君といい雰囲気になっていた時期があったよな」 「無い」 「いや、ある。サークルメンバーは付き合うに違いないと見守っていた」 「無い。無い、無い、無い」 「ちなみに私はお前への気持ちを思いっ切り引き摺っていた時期だから、割とイライラした。だから今、否定されると当時の私が勝手に落ち込んだだけみたいになるのでやめて欲しい」  素直に伝えると恭子は頭を掻いた。へぇ、と神様の目が輝く。 「いい感じの相手がいたのかい」  本当に恋バナが好きだな。そうなんですよ、と私は話を続ける。 「サークルメンバーの同期生だった男の子と、二十歳の時に恭子はいい感じになっていたんです」 「葵が恭子にフラれたすぐ後かい?」 「そうです。神様に私が相談したのが九月でしょ。十一月の学祭で何か仲良さげに見えて、普段も二人で喋る機会が増えて、年末の会とか試験明けの飲み会でも二次会では大体隣にいて、おい、お前ら付き合っていたんじゃないのか?」 「思い出してイライラしないでよ!?」  おっと、つい感情が先走ってしまった。失敬、と咳払いをする。 「だが確実にいい雰囲気にはなっていた。隠す必要もあるまい。実際、どうだったんだ。ムカつくけど、付き合っていたのか? フラれた私は全く面白くないが、教えてくれよ恭子」 「こっちを追い詰めにくるわね……」 「どうなの?」  神様も恭子を促す。さて、真相は如何に。返答次第では今日の私は少し荒れた酒になるやも知れん。
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