超能力者vs悪魔×2。(視点:咲)

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超能力者vs悪魔×2。(視点:咲)

「探せば一枚くらい、見切れている物もあるかも知れんがソロの写真は私は持っていない」  葵さんが戸惑いながら橋本君に答えた。 「私は旅行先や遊びに行った時に何度か一緒に撮ったので、ちょこちょこあると思います。だけど橋本君、どうして急に写真を持っているか訊くの?」  当然の疑問を伝えると、気になったって言うか、と受話器からお返事が届いた。 「丁度いいプレゼントを思い付いたんだ。酒、あげよう」 「お酒?」 「そう」  おいおい、と葵さんがスマホを口元に近付ける。 「酒をあげるなんてお歳暮じゃねぇか。プレゼントとして盛り上がらないぞ。あ、そうか。君、綿貫君も空き瓶を保存すると踏んだな?」 「あぁ、成程」  葵さんの泡盛の瓶がヒントになったわけだ。その時、ふっふっふ、と橋本君が悪そうな笑い声を上げた。 「ただの酒ではありません」  その言葉に、そうか、と葵さんが手を打つ。 「媚薬を盛るんだな!」  また変な御冗談を。 「そうです」 「そうなの!?」  橋本君の即答に、思わず悲鳴を上げてしまった。葵さんはニヤニヤしている。二人揃って悪魔ですね! 「駄目だよ媚薬なんて! その、ベッドから始まる恋もあるのかも知れないけれど、でも恭子さんはそう言う薬で綿貫君をどうこうするのは望まないと思うし、私達が勝手に一服盛るなんてそんなの犯罪です! 葵さんと橋本君が乗り気でも、私が絶対に止めてみせます!」  両手を握り締め、悪魔達を一生懸命説得する。ふしだらな行為から始まる恋もあるだろうけれど、綿貫君と恭子さんにはピュアからスタートして貰います! 「もしどうしてもと言うのならば……実力行使も辞しません……!」  葵さんのベッドをサイコキネシスで持ち上げる。殺す気か? と変わらない調子で口にした。 「葵さん」 「なんじゃ」 「……ベッドを持ち上げたのはやり過ぎでした」  そっと元の位置に戻すと、んだなぁ、と呑気に呟いた。 「でも、絶対、絶対止めますよ!」  ええと、手近な脅しになる物は、と。うん、これ! ゴミ箱! 中身ごとサイコキネシスで浮遊させ、葵さんの頭上で逆さまにする。 「媚薬は撤回して下さい。さもないとゴミをかけます。折角温泉に浸かったのに、汚くされたくはないでしょう?」  どういう状況ぉ? と橋本君がのんびり呼び掛けて来る。ほれ、と葵さんはスマホを操作しカメラをゴミ箱に向けた。どうやらビデオ通話にしたみたい。 「あー、脅されているのですね」 「そんな必要は無いのにな」  ですねぇ、と橋本君も相槌を打つ。 「だって冗談だもの」 「ええ」 「……」 「咲ちゃん、真面目」 「騙しがいがあるぅ」  ……。 「……今、何と?」 「媚薬は冗談」 「からかっただけ」  ……。 「……お二方、即興で私を騙したのですか?」 「媚薬を盛ろうって冗談に橋本君が乗って来た。だから私も更に乗り返した」 「親友に本気で飲ませるわけないじゃーん」 「橋本君はクズだが友情には篤いからな。すぐに察したよ」 「クズは余計ですよ先輩~」  葵さんの首根っこを掴まえ橋本君の元へ瞬間移動をする。おっ、と彼は目を丸くした。問答無用で二人をサイコキネシスで捉える。 「あらら、怒らせちゃった」 「ちょっとしたジョークだったのに」  息を大きく吸い込んだ私は。 「この大バカコンビ!!!!」  照れ隠しに絶叫をした。  橋本君がペットボトルからコップにお茶を注いでくれる。へえ、と頬杖をついた葵さんが声を上げた。 「意外だな。来客用の食器、あるんだ」 「佳奈と田中、綿貫が来た時に使うので」 「本当に君達は仲良しだね」 「まあそうですねぇ。地元から一緒ですし、喧嘩をしたりやらかしたりしても仲直り出来るくらいには深い関係です」 「別れた彼女とヨリを戻したりな」 「佳奈、酔っ払うとたまに言ってますよ。あの時、葵さんが心配して会いに来てくれたおかげだって」 「さて、私は勝手にお節介を焼いただけだ。佳奈ちゃんが頑張ったから復縁出来たんだよ」 「いいじゃないですか、私のおかげだろーって堂々と受け止めても」 「君と違って慎ましやかなのだ」 「いちいち俺を落とさないで下さいよぉ」 「自覚を持て、橋本君は駄目人間だ」 「んなこと無いっすよ~」 「美奈さん」 「すいませんでした」 「しかし我々が謝るべき相手は今、他にいるようだぞ」 「そうですね」 「悪かったよ咲ちゃん」 「いい加減、機嫌を直してよ」  むくれた私は口をきかない。だって本当に綿貫君へ媚薬を盛ったお酒をあげるのかと思ったのだもの。 「葵さん、橋本君。息、合い過ぎです」 「そりゃあ君をからかうためならば」 「互いの意思くらい汲み取るよ」 「そんな必要、ありません」 「私が楽しい」 「俺も、俺も」  ……いくら私が怒っても、この悪魔達はきっと改心どころか反省もしないでしょう。謝っている人の発言とは思えないもの。もういいですと呟くと、二人は拳を軽く合わせた。巨大な溜息が漏れる。こんなに相性がいいなんて知りませんでした……そして全然嬉しく無いですね……。  さて、と葵さんが橋本君を見詰める。 「結局、どんな酒をあげるつもりなんだ? 君の考えを聞かせておくれ」  そう言えばお話が途中でした。……途中なのに私をからかう方向へ全力で舵を切るなんて、酷いコンビもいたものです。 「えーっと、ちょっと待って下さいね」  橋本君が自分のスマホを操作する。すぐにテーブルの上へ差し出した。どりゃどりゃ、と葵さんが覗き込む。私はその場を動かない。お説教は諦めたけれど、まだ怒ってはいるのです。 「あぁ~、そういうことか。だから顔写真、ね。私は持っていないけど」  感嘆の声を上げた葵さんが、見てごらん、と私に勧める。でもそっぽを向いた。私をからかったこと、許していません。  その時、ほっぺに柔らかい感触が走った。え、と振り返るとすぐ傍には葵さんの綺麗なお顔。 「お詫びのチュー。許しておくれ」 「……え?」 「あ、咲ちゃんいいなー」 「橋本君にはしないぞ。好みじゃない」 「そういう問題?」  頬を撫でる。お詫びのチュー。お詫びの、チュー。 「……したんですか」 「した」  瞬時に顔が熱くなる。マウストゥマウスは無いと確信しているのでさっきは逆手に取れたけれど、そう言えばほっぺやおでこには葵さん、遠慮なくチューして来るのでした! 「赤くなってら」 「そりゃ照れます!!」 「咲ちゃんって田中とやることやってんの?」 「橋本君は何を訊いているの!?」 「いや、ほっぺにチューだけでそんなに照れちゃうなら合体する時はもっとえらいことに」 「それ以上聞かないで!」 「橋本君よ、今のは流石にデリカシーが無さ過ぎじゃね?」 「チューした葵さんに言われたくないですねぇ」 「で、何でこんなことになったんだっけ」 「咲ちゃんが拗ねちゃったから」 「あぁ、そうだ。機嫌、なおして?」 「情緒がぶち壊れそうですよ!!」 「キャラは既に壊れたな」 「咲ちゃんもぶち壊れるとか言うんだ」 「貴方達のせいですから!!」 「ちょっとチューしただけなのに」 「ちょっと合体について訊いただけなのに」 「だけ、じゃない!! バカコンビ!!」 「先輩をバカだなんて失礼だねぇ」 「ねぇ」  悪魔達は顔を見合わせ頷いている。駄目だ……正面から受け止めては翻弄されるだけ。そして私は単純なので、馬鹿正直に額面通りの言葉を受け取ってしまう。  相性、最悪。  あぁ、何て恐ろしい申し出をしてしまったのでしょう。橋本君には私からプレゼントを聞いておく、なんて軽々にしていい発言ではありませんでした。更に間の悪いことに、葵さんがいる時に切り出してしまった。お二人が揃うとこんなにも性格が悪く、根性がひん曲がるなんて予想だにしなかった。おまけにお互いの発言から真意を汲み取り波状攻撃を仕掛けて来る。数字上は一対二だけど、向こうは力が掛け算されている感じ。味方が! 私にも味方が欲しい! 橋本君には佳奈ちゃん、田中君、綿貫君をぶつけたい! 葵さんには恭子さん! そして此処には誰もいない! 孤立無援ってこの状況だな! 「ほら咲ちゃん、見てご覧よ」  葵さんがスマホを指差す。その仕草に背筋が強張った。 「どうした。私は真面目に話しているのだが」 「ね。いい加減、プレゼントの話を進めたいし」  散々本題から逸れておいてよく言うよ! それともこれも罠!? 覗き込んだ瞬間、パクっと、チュチュッと、食べちゃわれない!? 「あんまり疑心暗鬼になるなよ」 「疲れちゃうよ?」  駄目! もう耐え切れない! 瞬間移動!  目を開けると葵さんの家だった。ソファにへたり込む。何て恐ろしい人達なのか。完全に翻弄されてしまった。付き合いも長いのに。葵さんとはこんなにも仲良しなのに。一緒にお風呂へ入る仲なのに!   知らなかった! ここまで性格が悪いなんてね!  その時、電話が掛かってきた。ひっ、と勝手に悲鳴が漏れる。恐る恐る画面を見ると、葵さんのお名前が表示されていた。通話ボタンを押す私の指は震えている。耳を塞ぎたくなくてスピーカー受話にした。はい、と応じる声は我ながら弱々しい。 「置いていかないでおくれよ。手の早い男の家に私を一人にしないで」 「流石に葵さんへ手は出しませんって~」 「どうだかなぁ」 「田中と一緒にしないで下さい」 「彼もお手付きはしてないよ。ただ私に告白してフッただけ」 「何度聞いても最低だあいつ」 「コラコラ、咲ちゃんの婚約者なんだ。悪く言ってやるなよ」 「それとこれとは別です」  二人のやり取りが聞こえるということは、向こうもスピーカー受話なんだ。つまり、引き続き会話で追い詰められる可能性がある! 電話に出るんじゃなかった! 咄嗟に通話終了のボタンを押そうとする。しかし。 「さぁ~きちゃぁ~ん……」  見越したかのように葵さんが声を掛けてきた。両腕へ一斉に鳥肌が立つ。 「戻っておいでよぉ~……。プレゼント選び、一緒にしよぉ~……」  何で葵さん、そんなに間延びしているのですか!? 怖い! 怖いよぅ!! 「まだ俺が選んだ物、見てないでしょぉ~……? 確認、してよぉ~……」  橋本君も間延びしている! いや! 彼の場合は元々こんなものか! 意を決して、あの! と受話器に向かって叫ぶ。 「か、からかわないって約束して下さい!! ほっぺにチューも、変な嘘も、無しです!!」 「「えぇ~……」」  悪魔がハモった!! 「無し!! 約束!!」 「しょうがねぇなぁ。わかったよ、からかわない」  葵さんが、渋々といった具合ながらも同意してくれた。私の鼓動は変な高まり方をしたまま。じっと耳を澄ませる。誰も、何も喋らない。あ、これも罠だ! 「橋本君も! 約束!」  ちっ、と舌打ちの音が聞こえた。どっちの悪魔がしたのですか!? 「わかったよ。今日はもう咲ちゃんをからかわない。約束する」 「後日も駄目!」  二人ともまた黙り込んだ。何なのこの人達は!? 「いいですね!?」 「まあまあ、その時考えようや。ほら、早くプレゼント選びを再開しよう」 「約束!!」  沈黙。  三分後。根負けした私は橋本君の家へ瞬間移動をした。お帰り、と出迎えてくれた二人の影には尖った尻尾が生えているように見えた。これ、新しい超能力じゃないよね……真実の姿を見通すような、さ……。
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