一軍×二プラス三軍×一プラスベンチの外にいた人による女子会。(視点:葵)

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一軍×二プラス三軍×一プラスベンチの外にいた人による女子会。(視点:葵)

~十二月十五日(金)~  念のため、ホテルのフロントに予約者の名前と人数を伝える。そして自分が遅れて来た者である旨を申し出ると、部屋に向かって構わない、と通された。エレベーターに乗り込むとすぐに欠伸が漏れた。時刻は午後十時。まさか平日の夜にホテルへ泊まるとは思わなんだ。おまけに年末休業間近の時期である。私が働く経理部は、支払いの締め切りが早くなるのでプチ繁忙期なのだ。おかげで基本的に定時上がりの私ですら数多の伝票と睨めっこをしていたおかげでこの時間である。他の娘っ子達は何時に集まったのやら。  頭を掻きつつ止まったエレベーターから降りる。ええと、四〇三号室だったな。廊下をぷらぷら進み、悩んだ挙句咲ちゃんに電話を掛ける。残り二名は泥酔している気がしたから。スリーコールの後、もしもし、と可愛い声が応じてくれた。 「お疲れさん。遅れてすまん。今、四〇三号室の前にいるのだが」  そう伝えると、すぐに足音が近付いてきた。扉の鍵が開けられて見慣れた超能力者が顔をのぞかせる。よう、と片手を上げると、お待ちしておりました、と曇りの無い笑顔を見せてくれた。その左手薬指には今日もちゃんと婚約指輪が嵌められている。チューしていい? と言おうとしたその時、部屋の奥から嬌声が響いた。……二人纏めて酔っ払っているのか? ともかく近所迷惑になってしまう。急いで中に入り扉を閉める。それにしても廊下にいる時には全然声が聞こえなかったから、よっぽど防音がしっかりしているのだろう。だからっていくらでも騒いでいいわけじゃない。まったく、困った奴らだぜ。 「賑やかじゃのぉ」  私の呟きに、二人とも盛り上がっています、と若干引き攣った顔で咲ちゃんが応じてくれた。そうかい、と言いつつ足を進める。部屋はリビングのスペースと、奥にベッドが二つ並んでいた。ってことは隣の部屋か何かが残り二人の泊まる場所なのかね。立ち尽くしていると、あっ、と赤い顔をした恭子が気付いた。……十秒以上掛かったがな。 「葵だ! ちょっとぉ、遅かったじゃないの! もう十時過ぎよ!?」  でけぇ声だ。 「経理部は忙しいのさ」  肩を竦めると、お疲れ様です! と負けず劣らず張りのある声が響き渡った。これが廊下に漏れないのだからつくづく優秀な防音設備だ。しかし君の声帯も立派だな、佳奈ちゃん。或いは腹式呼吸の発声法でも使っているのか? 運動部出身は元気だねぇ。 「お待ちしてましたよ葵さん! 彼氏、欲しいんですか!?」  いきなり何事だ。 「いや別に」  途端に、うっそぉ、と恭子が立ち上がり私の肩を強く抱いた。……ん? 意外と酒臭くないな。てっきり泥酔しているからハイテンションなのかと見込んでいたが、コンディショナーのいい香りしか漂わせていない。ってことはナチュラル・ハイなのかよ。余計に面倒臭いな。 「葵、寂しがっていたじゃないの。相手、欲しいんでしょぉ?」 「私、知り合いの男の子とか紹介しますよ!? 職場の人、は気まずいからやめましょう。大学時代の友達とかどうです!?」 「目を輝かせるな。スマホを取り出すな。まだ私は頼むとも何とも言っておらん」 「じゃあ仰って下さい。この高橋佳奈にお任せを!」  何故名乗った。 「ほら葵、お願いしちゃいなさいよ! 佳奈ちゃんの友達なら信用出来るでしょ?」 「どういうタイプがいいですか? 優しい系、ちょいチャラい系、熱血系、オタク系、などなどなど。好みを仰っていただければ仲介します!」 「流石佳奈ちゃん! 気が利くぅ」 「お世話になっている葵さんのためならば、いくらでも尽力します!」 「葵のおかげで佳奈ちゃんも橋本君とヨリを戻せたんだもんねー」 「はい! そして恭子さん、次は貴女が綿貫君を掴める番ですよ!」 「きゃーっ! はっきり言わないでよ! 恥ずかしい!」 「いよいよ来週じゃないですか! クリスマス、勝負ですね!」 「そうなのよー。もう一週間後!? って感じ」 「田中君と相談してバッチリなプランを固めたんでしょ。きっといけますって!」 「でもあの綿貫君だからねぇ。どうしても読み切れない部分がある、ってこの話も今日何回目!?」 「何回でも話しましょう! そして……?」 「んふふ……」 「そんな、彼のぉ?」 「変なところも含めて可愛いー!」 「きゃーっ! 恭子さん、大胆!!」 「佳奈ちゃんが言わせたんじゃないのよぉ!! もうっ、もうっ!」 「速攻で白状したのは恭子さんじゃないですかー!」 「そうー!」  ねーっ、と二人揃って首を傾げた。私の話は何処へ行った。 「風呂入って来る。大浴場にな」  冷たく言い放ち鞄を床に置く。そして着替えと洗面用具を取り出した。えーっ、と恭子が不満を顕わにする。 「取り敢えず飲んでからにしなさいよぉ」 「そうですそうです。ちょっとお喋りしてから行きましょ」  面倒臭ぇなぁ。こっちは仕事でくたびれてるってんだよ。 「いや、酔って風呂に入ったら溺死しかねん。先に休憩させてくれ」 「「えー」」  ハモるな。 「寝巻、何処だ。あと私が泊まるのはどの部屋だ」  あの、とスーツの背中を引っ張られた。振り返ると咲ちゃんが私を見上げていた。うーん、癒される。 「取り敢えず着替えはこの部屋の浴室にあります。そしてお部屋ですが、此処ともう一つ取ってあります。こちらには葵さんと恭子さん、向こうには私と佳奈ちゃんが泊まる予定ですが、明確に決まっているわけではありません」 「そうか。んじゃまあ荷物を置いて、寝巻を借りて風呂入ってくらぁ」 「あっ、私、一緒に行きます」  ふむ。 「えー、ちょっと咲ぃ。あんたはもう一回入ったでしょぉ」 「そうよそうよ。それよりいい加減、吐いたらどう? イルミネーションの前でキッスしていた事件についてね!」  キスをキッスって言われると何故か殺意が湧くんだな。初めて知ったよ、恭子。 「あ、あれは田中君が迫って来たから……」 「でも咲だって受け入れたんでしょ。やっぱロマンティックさに屈したの?」 「いい写真が撮れたわよねぇ。よくやったわ葵!」 「ただ全員に共有したのは人の心が無さ過ぎます! あはは」 「まあ結婚するんだし別に良くない? どうせ式では私達の前でキッスをするのだし」 「写真、撮らなきゃ」 「この目で見届けるのも忘れずにね」  恭子と佳奈ちゃんは揃って、んふふふふ、と呻くような笑い声を漏らした。しっしっ、と追っ払う。 「何よぉ葵。あんたが二人を尾けようって言い出したんじゃないのよさ」  あぁ、駄目だ。恭子がこの語尾になる時はクソ面倒臭いモードに入っているのが確定している。 「葵さんだっていじりたかったんでしょ」  うるせぇなぁ。 「そうだよ。んじゃ風呂入ってくらぁ。咲ちゃん、行こうぜ」 「あ、ちょっと待ちなさいってば」 「葵さぁん、先に飲みましょうよぉ」 「風呂あがってからな」  行くぞ、と咲ちゃんの手を引く。咲は残れ! と聞こえたが空いている方の手を振って適当に流す。ちぇーっ、と二人分の声が聞こえた。やれやれ、相変わらず恭子と佳奈ちゃんが揃うと面倒臭いな。  浴室でタオル、部屋の入口で寝巻を手に取りとっとと退室した。扉を閉めると、やれやれ、と自然に呆れが口を突いて出た。あの、と咲ちゃんが私の手を握り直した。今日も君は私の手を空っぽにしないでくれるんだねぇ。 「助かりました、葵さん。ホテルに着いてから二人ともずっとあの調子でして」 「何時から始まっているんだ?」 「七時に駅で合流しました。それからまずは大浴場でお風呂に入り、上がってから近所の居酒屋さんや喫茶店でテイクアウトの品を買い込み、持ち込んだお酒で乾杯したから……二時間くらい飲んでいますかね」 「だが飲まなくてもあの二人はきゃいきゃいしているだろ」  恭子が酒臭くなかったのがいい証拠だ。トークに華を咲かせて興奮状態なのだと思われる。だから大して酒を飲まなくても楽しめているんだな。逆に、私らが相手では恭子を満足させられていないのか。故にいつもは酔い潰れるまで飲む、と。  ……あいつは私らとタイプが違うもんな。 「そうなのです」  咲ちゃんは深々と頷いた。大浴場へ行くためエレベーターを待ちつつ、話に耳を傾ける。 「私が駅に着いた時には二人は既に揃っておりまして。嬌声が響いておりましたので何処にいるかすぐにわかりました」 「傍迷惑な奴らだ」 「恭子さんと佳奈ちゃんは二か月ぶりの再会だったようですが、ゆっくりとお話が出来るのはとても久しぶりだったらしく、凄い勢いで近況報告を交わしておりました」 「ゆっくり喋ればいいのに」  まったくです、と小さな頭が盾に揺れる。髪、さらさらだな。 「チェックインをして部屋に荷物を置いてからも、お風呂に入っている間も、夕飯の買い出しに行っている時も、ずーっとお話しておりました。聞いているこっちが疲れてしまうほどに」  やって来たエレベーターに並んで乗り込む。レッツゴー、大浴場。 「だけど、ちょいちょい話題を振って来るんだろ。咲はどう思う? って」 「はい。おかげでなかなか気が休まらず、かと言って私はあんなに明るく元気に振舞えないので、困ったなぁ、葵さんが早く来てくれないかなぁ、と待ちわびておりました」 「君にそう言って貰えるのは限りなく幸せだね。そして同情するよ。三時間以上、お疲れさん」 「疲れました。改めて目の当たりにした一軍女子の集いはやはり凄いです。綺麗で、華やかで、煌びやかで。おまけに元気いっぱいと来ました」 「そんでもって恋愛にミーハーな二人だからな。佳奈ちゃんは橋本君とヨリを戻せて良かったわね! とか、恭子さんは綿貫君のどこを好きになったんですか!? なんて会話を繰り広げていたんじゃないのか」  エレベーターが最上階に到着した。風呂場はもうすぐそこだ。 「なんと、よくおわかりになりましたね。まさに今、葵さんが仰ったことも喋っていましたよ」 「さっきの会話の様子から推察するのは難しくない。そんな勢いに咲ちゃんも巻き込まれた、と。あと、悪かったな。チューの写真をばら撒いて」 「それについては、はい、としか申せません」 「ごめんて」  女風呂の扉を抜ける。スリッパを置いてとっとと脱衣所へ。私はブラウスを脱ぎ、次にスーツのパンツを下ろした。部屋で一旦着替えるか悩んだが、あいつら二人が面倒臭くて飛び出して来てしまった。皺にならんといいのだが。 「しかし女子会なんてもんにお呼ばれするとは思わなんだ」  服を脱ぎながら話を続ける。うーん、と咲ちゃんは低い声を漏らした。その間に彼女も寝巻を籠に放り込む。私が脱がせてやりたいね。背徳感の塊に違いない。 「ただ、憧れてはおりました。お友達の女の子と一緒に泊まりでお喋りをするのは。おまけに恭子さんも佳奈ちゃんも学生時代には私に縁の無かった一軍女子です。そんな人達と一夜を過ごせるのは夢のような体験ではあるのです。……ちょっと疲れてしまいますけど」 「私も関係無い世界だ。他人の事情なんざどうでもいい。あ、勿論咲ちゃんや恭子、佳奈ちゃんは大事な友達だから幸せになって欲しいとは思っているぞ。ついでに三バカも」  ついで、と咲ちゃんが呟く。自分でもわかってらい、照れ隠しだってな。まだまだ私はシャイなのだ。見逃しておくれ。 「それはそれとして自分以外の人間がどう生きようが興味が無い。各々、価値観はバラバラ。ものの見方も考え方も違う。そんな相手に私があれこれアドバイスを与えたり、人生に口出しをしたり、ましてやこうこうこうだったら素敵なのに! なんて目を輝かせたりはしない」 「葵さんって寂しがり屋さんなのに、他人に興味が無いですよね。とても複雑な性格です」 「へそが曲がっていないか確かめて」  下着姿で咲ちゃんに向かい、腹を指差してみせる。じっと見詰められてちょっと恥ずかしい。昔受けた手術の痕が、へその上から胸の下部辺りまでバッチリ残っているし。遅まきながら思う、ちょい軽率だったな、と。 「おへそは真っ直ぐです。あと、パンツのおリボンが可愛いです」 「エッチ」  とっとと脱ぎ捨て風呂場に向かう。咲ちゃんも小走りについてきた。滑って転ぶなよ、超能力者。
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