咲のぶっちゃけ話。②(視点:葵)

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咲のぶっちゃけ話。②(視点:葵)

「そうなのよ。それに、普段からひねくれているとはいえ、そこまでいじけないくせにその日はまあしつっこくてね。わけがわからないから田中君のところへ行って解説して貰ったの」 「……その選択肢はアリなんですか」  あぁっ、更に傷口が広がる予感! だけど今、咲ちゃんと目を合わせるのは恥ずかし過ぎる! かと言ってそっぽを向くわけにもいかないだろ! 「結論としては完璧だったわ。彼、見事に葵の心情を当てたもの」 「……咲はそれでいいの?」 「本当に性格がそっくりなんだなぁって」 「……いいならいいけど」 「でね、どうしてやたらといじけたかって理由だけど。何と素直になったからだったのよ!」  その説明で伝わるか! どうしてそんなに下手なんだ! 「素直になったから、いじけた……? 真逆じゃないですか?」  案の定、佳奈ちゃんが戸惑っている。……いや、これに関して原因は恭子じゃなくて私にあるな。何だ、素直にいじけたって。どんだけへそ曲がりだ。 「私がね、その直前に、もっと葵は自分の気持ちを素直に吐き出していいのよ、ってアドバイスをあげていたの。そうしたらこの子、ちゃんと言うことを聞いたのよ」 「結果、不満たらたらになった、と」 「私も咲ちゃんもいなくなるわけないのにね」 「あっ、私が頭数に入っていないじゃないですか! 疎外感を感じるなぁ」 「確かに! ドンマイ!」 「恭子さん、人の心とか無いんですか!?」 「あるからこうして恋心に翻弄されているんじゃないの」 「……またまたつつき辛い返事をしますね」 「でも葵ってば可愛いと思わない? 貰ったアドバイスをちゃんと受け入れて、すぐに実行したのだから。着地点が、素直にいじける、とかいうわけのわからないものだったけど! あはは、あんたもやっぱり変人よ!」  誰が変人だ! 私は普通を具現化した全力の一般人だ。そもそも変わり者の権化みたいなお前にだけは言われたくない! 大人になってこいつも多少は丸くなったけど、それはそれとして大学時代の暴れっぷりは忘れないからな! そんな文句をぶつけようとしたのだが、あれっ、と咲ちゃんが一瞬早く声を発した。恐る恐る、背もたれの後ろから様子を覗く。恭子は金持ちみたいな座り方、佳奈ちゃんはワイングラスを持って着席、咲ちゃんは人差し指を眉間に当てていた。謎解きでも始まりそうだな。 「私は田中君と付き合っています。そして葵さんが大好きです。二人の性格はとっても似ています。私達には理解不能なひねくれ者の思考パターンも一瞬で読み取ってしまうほどに。或いはお互いの次の行動や発言を当てられるくらいに。まあお二人が惹かれ合うのも仕方ありません、とうっかり納得しかけるくらい、そっくりさんです」  ……居た堪れない。好きで似通っちまったわけではないのだが、確かに我々はよく似ている。マジで何を考えているか、わかるんだもんな……。私はあいつの行動や言動が当てられる。田中君も私が愚痴りまくった原因をすぐに言い当てた。全く、何でここまでへその曲がった人間がお互いでくわしちまったんだか。ふと見ると、佳奈ちゃんは唇をうねらせていた。恭子は顔を顰めてあからさまにヒいている、と思いきや、私の視線に気付くと黙って首を振った。お前な、一番気まずいのは私に違いないんだぞ! 一方、咲ちゃんは我々の様子に気付いた様子も無く、思考と話を続けた。 「以上の状況から類推するに、私の好みのタイプはひねくれ者という結論に至りそうなのですが、皆さんはどう思いますか……?」  どう思うって。当事者の私は、いやぁ、と言葉を濁すしかない。 「逆じゃない?」  恭子がよく通る声でそう言った。え、と私と咲ちゃんは首を傾げる。 「あ、わかります。やっぱりそうですよね」  ただ、佳奈ちゃんだけは頷いた。むむ、見事に一軍と三軍の差が出たな。我々には君らの言いたいことがさっぱりわからんぞ。 「逆、とは?」  咲ちゃんの問い掛けに、つまり、と恭子はソファに座ったまま背もたれの後ろにいる私を指差した。 「ひねくれ者達の方が咲ちゃんに惹かれているんじゃないのかしら。田中君の場合も、彼から咲ちゃんにしつこく話し掛けて来たのでしょう?」  はい、と真顔で頷く咲ちゃんの様子に佳奈ちゃんが小さく吹き出した。笑いたくなる気持ちはわかる。 「こないだ聞いた話では、田中君が咲ちゃんを好きになったから必死でアプローチをかけて振り向かせたのだったわね」  へぇ、そうなんだ。あの野郎、割と恋愛に積極的なのか? 私に対してはその性質が悪い方向に働いたね。バーカ。 「逆に咲ちゃんは彼のこと、最初はどう思っていたの?」 「別に、何とも」  今度は私も声を漏らした。遠慮無くぶった切り過ぎ! 恭子は咳払いをした。佳奈ちゃんは後ろを向いているものの、肩が震えている。めっちゃ笑っとるやんけ。 「まあ、そもそも田中君とお友達になる前の私は、他人と関わってはいけないと思い込んでおりました。故に、誰に対しても平等に、興味や関心を持たないよう心掛けておりましたね。彼だけが眼中に無かったわけではありませn」  あぁ、なんて哀しい決意なのか。恥ずかしさから隠れていた私だが、つい立ち上がり咲ちゃんを手招きした。 「あぁ、葵さん。復活されましたか? 私はとっても恥ずかしい告白をしたなぁと少しふわふわしております」 「あんまり飲み過ぎるなよ」  そうですね、と薄く微笑みを返される。うっ、可愛い。 「そして、私の恥も何もあるか。咲ちゃんのそんな哀しく寂しい告白を聞かされて、ソファの裏に引っ込んでなんていられねぇよ」  両手を広げる。わーい、と抱き着いてくるのをしっかりと受け止めた。 「良かったよぉ、君と仲良しになれて」 「私もです」  一方傍らでは、ほら、と恭子が話を続けた。 「葵も咲ちゃんにメロメロでしょ。咲ちゃんの方も葵のことを大好きだけど、葵から咲ちゃんへの感情は恥ずかしがり屋のこの子が照れているにも関わらず姿を現すくらいには重いのよ」  私は照れの権化かなにかか。 「あんた、咲ちゃんが大事で大好きでしょうがないのよねぇ」 「当たり前だろ」  こんなにいい子を愛でずにいられるか。 「あ、こういうところも咲ちゃんに対してだけは違うのよ。今みたいに、好意をストレートに口へ出さないもの。その対象は咲ちゃんだけ。遠回りな言葉は使わなくなる。きっと、咲ちゃんの素直さに対してこっちも真っ直ぐ向き合わなきゃ、ってなるんでしょう」  そこまで露骨じゃない、と反論しようとしたのだが。する意味も無いな、と思い留まる。ね、と恭子は人差し指で我々を指した。 「以上のように、ひねくれ者達は咲ちゃんに惹かれるのよ。自分には決して無い、そして出現する可能性もほぼ無い性質だから。人間は己に無いものを欲するの。田中君や葵が逆立ちしたって咲ちゃんみたいに率直な気持ちを素直に口へ出す日は来ない。咲ちゃん以外の人間に対して、ね」  しかし流石にちょっとあんまりな言い様ではないか? おい、と恭子を逆に指差す。 「私だって素直になる時はあるぞ。咲ちゃんに大好きってチューする時とか」 「結局咲ちゃん相手じゃない。咲ちゃん以外の相手に出来る? 大好きー。チューって」  ……。 「恭子と佳奈ちゃんになら……試してみるか?」 「しまった! 藪蛇だった!」 「い、いいですよ。私には彼氏がいますから!」 「ほっぺくらいならセーフじゃね? なぁ咲ちゃん」 「アウトだとしたら既に私は浮気者です」  何回チューしたかわかんないもんな。 「それは二人の関係が特殊なだけです!」 「だがまあ咲ちゃんにチューするのは抵抗が無いけど、恭子や佳奈ちゃんに対しては照れや気まずさが非常に強い。うーん、やっぱり咲ちゃんには素直に好意を示せるのかね」 「いつ素直になっているんですか……チューで示さないで下さいよ……」  佳奈ちゃんの呆れに、そう? と咲ちゃんのほっぺへ唇を当てる。あっ……といつも通りの吐息みたいな反応が返ってきた。 「な?」  佳奈ちゃんは目を見開いたが、何が? とすぐに溜息を吐いた。 「な? じゃありません。それ、セクハラですよ」  ううむ、尤もなご意見だ。 「他の誰かにも言われたな」 「駄目じゃないですか! 反省して下さいよ!? 咲も咲で、もし嫌だったらちゃんと拒否しなさいね!」 「……嫌じゃ、ない……」 「照れるね」  今度は佳奈ちゃんが私達を指差した。 「何なんですかこの二人! いっつもこの調子なんですか!? 」  問われた恭子は、そうねぇ、と優雅にワイングラスを傾けた。お前、さっきからやけに余裕があるな。 「最近ではちょこちょこ咲ちゃんの反撃にもあっているみたいだけど、基本的にはこんな感じね。べったりする葵と照れちゃう咲ちゃん、みたいな」 「過剰なスキンシップでは?」 「本人達がいいならいいんじゃない?」 「ちなみに田中君はこの怪しげな関係について何と?」  咲ちゃんは小首を傾げた。 「ほどほどにして下さい、だって」 「あの子も咲ちゃんが葵を好きなのはよくわかっているもの」  そして田中君も私を好きだった、と。いやどんな三角関係だ。全員相思相愛って頭がおかしくなりそうだ。まあ私と咲ちゃんは恋愛ではなく親愛の情であるが。 「まあ流石に三バカの前では自粛しているぞ? いやらしい目で見られても困るから」 「あっ、そうか。だから私も目撃していなかったんだ。私が同席する時って、大抵彼らも一緒にいたから」 「おぉ、そうか。どうして今更佳奈ちゃんがびっくりしているのか気になっていたが、そういうわけだったのか。ようこそ」 「ようこそって何!? 私はそっちの気はありませんからね!?」 「いや、地元の友達である三バカがいなくても我々と共に過ごせるようになってくれたのが嬉しいのだ。女子会、開いて良かったな。む、今の発言は割と素直じゃないか?」  半ば茶化すようにそう言ったのだが。……あれ。三人が何故か気まずそうに目を逸らしている。何で?
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