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葵+恭子=名探偵。(視点:田中)
「何ですか」
「美奈さんだよ。橋本君の顔を隠しているってことは、画像を加工しているのだろう。私はよく知らんが、そういう時って写真をしっかり見るんじゃないのかい」
葵さんの質問に、まあそうですね、と橋本が応じる。
「スタンプを押すだけだとしても位置や大きさは調整します。でもそれだけじゃない。美奈さんの顔や背景も微妙にいじってあります」
「写り込んでいる奴の近くは?」
「いじってますね」
「他の写真はどうなんだい」
再び橋本が確認する。やがて、いじっています、と葵さんを見た。
「そんなら気付かない方が不自然だろ。なのに美奈さんは平気でそいつの写りこんだ写真を毎度アップしている。私なら嫌だね。不気味なストーカーみたいな奴が見切れた写真を世界中に晒すなんて。何よりその話を橋本君にしていないのがおかしいだろ。どっちかのストーカーである可能性が高いのなら、身の危険を感じて情報を共有するはずだ。それをしないということは」
「……自作自演?」
「そういうこった。それこそ動機はわからん。折角のデートの写真にキモイ奴を見切れさせて毎度アップする意味は何だ? 私にはそこがわからんのよ」
葵さんが肩を竦めた。そうしてタッチパネルをいじり始める。自由だな。猫みたい。その時、バズり、と恭子さんが呟いた。
「あん?」
「バズり狙いじゃないかしら。デートの度に不気味な女が見切れている。それってとても怖いじゃない。ヤバイ写真ってことで騒ぎになるかも」
「駄目だろ、騒ぎになっちゃ」
「いいのよ、話題になって。盛り上がれば盛り上がる程、閲覧者が増える。赤の他人が数万人、数十万人、見てくれる。数が増えれば満たされるの。承認欲求がね」
恭子さんの意見に、そういうものなのか、と葵さんは腕を組んだ。
「そういうものなの。まあ葵と私の意見が正解かはわからない。本当にストーカーかも知れないわ。一応、警察に行ってみる?」
いや、と俺は首を振った。
「まずは美奈さんとやらに聞いてみようぜ。毎回見切れているけど気付いていたかって。マジで気付いていなかっただけかも知れないし、その時は警察に行けばいい。でも先に警察へ行って実はヤラセでした、なんて判明したら最悪じゃん。取り敢えず美奈さんに確かめてみろ」
俺の提案に、わかった、と橋本が頷く。
「今日、この後会えるか聞いてみる」
「あと、URLを教えてよ。もしかしたら、写真から咲がそいつを突き止められるかも知れない」
なにせ俺の彼女にして将来の嫁は超能力者だ。サイコキネシス、瞬間移動、パイロキネシス、ヒーリング、テレパシーと何でもござれ。発見出来る可能性は高い。
「美奈さんとやらの家は近いのかい? こんなことを言い出したのは私達だ。責任を持って同席したいのだが」
「そうね。全然違ったら申し訳ないもの。あと、橋本君のストーカーだとしたら一人で行動させるのも危ないし。まあ酔っ払いがいたところで役には立てないでしょうけど」
先輩二人の申し出に、ありがとうございます、と橋本は頭を下げた。
「タクシーで二十分くらいあれば行けます。払うんで一緒に来て下さい」
「俺も行く。どうします、もう店を出ますか。早い方がいいと思いますが」
しかし、待て、と葵さんが鋭い声で静止した。全員、動きが止まる。しばしの間を空け、葵さんが口を開いた。
「ハイボールのおかわりを頼んじゃった。それを飲んでからにしておくれ」
その言葉に、恭子さんが私もおかわり、とタッチパネルを手に取った。
「呑気過ぎない?」
不満そうな橋本に、助けて貰うんだから我慢しろ、と言い含めて俺もおかわりを頼んだ。どうせもう一杯来るのが決まっているのなら、俺だって飲みたい。
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