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佳奈の妄想は止まらない。(視点:佳奈)
「うわ、マジかよ。こんな偶然、あるんだな」
恭子さんに連れられて、遅れて合流した田中君は目を丸くした。
「田中君は私の隣に座って。佳奈ちゃんが隣だと、怖い」
「自業自得です」
そう言いながら、さりげなく聡太の隣へ移る。空いたところへ田中君が腰を下ろした。
「自業自得?」
「揉めているカップルがいるからどんなツラか見てこようと思ったって言われたから、揉めていた当人としては面白くないよ」
私の答えに、だから止めたのに、と田中君は呟いた。
「だってあまりに長かったんだもん」
二人のやり取りはそれだけで終わった。違和感を覚える。いつもの田中君ならもっと相手をちくちく責めるはずだ。だけど今日は一言で終わり。皮肉屋な彼にしては珍しい。
「しかし橋本君と佳奈ちゃんが一緒にいるとはねぇ。事情は知らないから深くは詮索しないけど、取り敢えず絶縁はしていないようで安心したわ」
絶縁どころか私はもう一回告白をするつもりだったんですけどね。恭子さんの、げ、が無ければ今頃結果は出ていたのかも知れないんですよっ。
「まあ、あれですね」
田中君が何か言いかけた。だけど中途半端なところで止まる。あれって何よ、と恭子さんがせっついた。
「すいません。橋本と高橋さんはきっとデリケートな関係なので、下手に俺がつっつくとまた色々ぶち壊してしまいそうで怖くなりました」
「うん、そうね。余計な口出しはやめておきなさい」
恭子さんが深々と頷く。しかしこっちは収まらない。口を開きかけたけど、聡太の方が一瞬早かった。
「色々ぶち壊すって、何? 田中、お前も何かやらかしたのか」
やけに生き生きしている。自分がずっと責められる側だったから、仲間に引き入れるつもりだな。うーん、聡太は本当に反省したのだろうか。自分が上がるんじゃなくて同じ低さに引きずり込もうとしているのはあんまりよろしくないと思うなぁ。ただ、私も色々ぶち壊すって発言が気にはなっていた。その点においてはグッジョブ、聡太。
田中君は縋るように恭子さんを見た。
「この件に関して私があんたの味方をすることは一切無いわ」
笑っちゃうくらい見事に一刀両断された。
「やらかしたんですか」
聡太が恭子さんに問い掛ける。またしても深々と頷いた。
「おい田中。恭子さんがこんなに怒るなんてよっぽどだぞ。もしかしてそのやらかし絡みでお二人は今、此処にいるのですか?」
次の瞬間、恭子さんの眼光が鋭く点った。
「あんまり生き生きしないで。私がキレるから」
はっきり殺気を醸し出される。さっきまで、私に脇腹をつつかれて身悶えしていた人と同一人物とは思えない。失礼しました、と聡太は小さくなった。私も何となく座り直す。恭子さんは手の甲に顎を置いた。
「それこそデリケートな問題なのよ。今は触れないで頂戴」
わかりました、と聡太と揃って頭を下げる。凄く気になる。田中君が恭子さんに何をやらかしたのか。あれ、でも昨日は田中君、葵さんと二人で飲みに行ったんだっけ。もしかして、本当に間違いを犯したの? お酒を飲ませてお手つきしたの? 私の妄想だったけど、まさかマジでやらかしたのっ? それなら恭子さんが怒っているのも辻褄が合う。きっと葵さんが恭子さんに相談したんだ。勢いに任せて間違いを犯しちゃったって。だからこうして誘ったであろう田中君を叱り飛ばしに来たんじゃないの? 何でこの私達の住んでいる辺りから一時間半くらいかかる巨大ショッピングモールで、なのかはわからないけど。
あ、でも沿線沿いにラブホテル街があったな。そこへ連れ込んで、朝帰りして、葵さんは恭子さんのところへ行き、田中君はこっちへ寄り道した!? そして恭子さんは彼を追って此処へやって来た!?
うわぁ、全部繋がっちゃったよ! どうしよう、どうしよう!
最低だね、田中君! だけど確かに触れられない。昨夜から今朝にかけての話なんて、私が当事者なら絶対に触れられたくない!
「あの、高橋さん。やけに鼻息が荒いけど、具合でも悪い?」
はっと気付くと三人が私を見詰めていた。話し掛けて来た田中君に、最低! と言いたくなる。だけど触れるなって恭子さんに釘を刺されたばかりだし、うーん、もどかしい!
「具合は、いいよ。ちょっと血圧が高いけど」
「佳奈、塩辛い物が好きだもんね」
聡太が見当違いなフォローを入れる。そういうことじゃない。そういうこっちゃないのよ!
「そうなんだよ。美味しいからね」
でも今は乗っておく! そっちの方が話の収まりがいいから! ありがとね、聡太! こんな形で今日、感謝をするとは思わなかったなぁ!
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