綺麗ですから。(視点:恭子)

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綺麗ですから。(視点:恭子)

a6e50758-f95e-46b4-8963-4263d3dc9dbb(生成サイト:https://creator.nightcafe.studio/studio)  送られてきたのはアニメテイストの絵柄だった。長い茶髪、細身の体。割と大きい目。足からお腹周りは細い。……割と、と言うか、かなり私に近いじゃないの。紺色のネクタイをしたことは無いけどさ。あと、左肩にかかっている物は何かしら。まさか拳銃のホルスター? それはともかく。 「……如何でしょう」  綿貫君が低い声で問い掛けた。 「アリガトウ」  返答が固くなってしまう。 「あれっ。恭子さん、気に入りませんでしたか!?」 「いや、違う。そうじゃなくてっ」 「すいません、これが一番イメージに近かったのです! でもご本人は不服ですよね。すみません、力及ばずっ!」 「いやだから違うってばっ!」  ええい、恥ずかしいけど誤解されているよりマシだっ。言っちゃえっ! 「とても綺麗で可愛く作れていると思うから、嬉しかったのっ。そりゃ私は美人の自覚はあるけどさ、こうやって形にされて喜んだのよっ! ありがとね綿貫君、君には私がこう見えているの?」  途端に綿貫君は赤面した。え、何でそっちまで赤くなるのよ? その時、テーブルの対岸で葵が吹き出した。 「ぶはは、恭子姉さんってば大胆だな」  大胆? 「ちょっと、何でよ」 「だって、綿貫君の目には私がこんなに可愛く映っているの? それってとっても嬉しいわ。そういう意味に聞こえたぜ」  あぁっ、そうかっ! 発言を纏めるとそうなるのかっ!  「え、えと、えっと」  わたわたしていると、そうですね、と小さな返事が聞こえた。 「ほら、何度もお伝えしたように恭子さんは綺麗なお顔をされています。勿論、中身も素敵な先輩です。だから、再現したイラストが可愛くなるのは、当、然っ、ですっ!」  言いながら恥ずかしくなったのか、徐々に声のトーンが上がった。落ち着いて、と咲ちゃんが綿貫君を宥める。葵は天井を見上げ、大口を開けて笑っていた。人の恋路を爆笑するんじゃない! 「あ、ありがとうね」 「い、いえ」  やり取りだけは初々しいカップルみたい。だけどさぁ、やっぱり脈は無いのよね。だって、素敵な先輩、なのだもの。これが素敵な方、だったらまだ私個人を見てくれている気になるのになぁ。先輩って枠組みに収められていると、何か希望を持てないのよねぇ。 「あー、おもしれ」  人の気も知らず葵が涙を拭う。 「しかし綿貫君よ。このイラストの恭子にはいささか胸が足りないぞ。巨乳ってちゃんと入れたのか?」  更に綿貫君の顔が赤くなる。黙って首を振った。 「駄目じゃねぇか。情報は正確に。キーワードは明確に。ちゃんと再現しなきゃ職人とは言えないねぇ」  職人なんて一言も名乗っていないじゃないのよ。だけど意外にも葵はそれ以上追及しなかった。私がスタイル維持を頑張っている一方で、若干のコンプレックスを抱いているのを知っているからかしら。じゃあ最初からいじるなっつーの。  はい、と今度は咲ちゃんが手を上げる。 「綿貫君、他にも恭子さんのイラストがあるんじゃないの?」 「え、そうなの?」 「ほほう?」  三方向からの視線を受けた綿貫君は、少しの間もぞもぞしていたけど、はい、と頷いた。 「よくわかったね咲ちゃん」 「だって、違うんだよなぁ、って呟いていたもの。できたはいいけれど納得がいかなかったのかなって」 「成程。逆に見せてくれよ。微妙な仕上がりになった恭子を」  乗っかって来た葵に対し、えぇ、と露骨に渋った。 「だってマジで恭子さんっぽくないですよ?」 「むしろ面白そうじゃねぇか。どんだけ実物と乖離したのかを確認したい。勿論、無理にとは言わんが。な、恭子。お前も見て見たいとは思わんか。自分じゃない自分をさ」  自分じゃない自分。綿貫君の目に映る私。それを再現し切れなかったイラスト。何だか頭がこんがらがりそう。だけどそんな私も画面の中には存在するのね。  うん、と頷く。じゃあ送ります、と眉を寄せた綿貫君がスマホを操作した。程無くして画像が届く。 8d6792c6-e203-47d1-a87c-150c4dc9b4fb(生成サイト:https://creator.nightcafe.studio/studio) 「いやゴッツいな!!」  反射的にツッコミを入れる。ひゃっひゃっひゃ、という葵の笑い声が響き渡った。 「え、何この肩幅。骨格からして強そうじゃない!?」 「腕捲りもいい味出してんな。……覚悟、って呟いた直後に左フックを打ち込んできそうだ。いや、問答無用で相手をとっ掴まえてバックドロップをぶちかましてきそうでもあるな? どっちにしろ武闘派だろこの恭子はよぉっ! ひゃっひゃっひゃ!」 「葵、笑い過ぎ!」 「だから見せたくなかったんだよぉ」 「この恭子さん、首の辺りの筋がまた強そうな感じを醸し出しておられますね……凄い……」 「ひゃっひゃっひゃ!」 「私じゃないから! いや、私なの!? っていうかガタイの割に腕は細くない!?」 「肩幅が全てを持って行った! ぶひゃひゃひゃひゃ」 「笑うな!」  息も絶え絶えな葵と何故か感心する咲ちゃんの対比がひどい。あの、と綿貫君がおずおずと私に声を掛けた。 「一応、もう一枚だけあるのですが……」 「見せろぉぉ!!!!」 「葵! うっさい!」 「見ましょうよ、恭子さん」 「咲ちゃんが意外と乗り気なのよね。ちなみに二枚目の私ほどの衝撃はある?」 「無いですね」 「んだよ、オチとしては弱いんじゃねぇの」 「人のイラストにオチを期待するな!」 「じゃあまあ、送ります」  そうして送られて来た三枚目は。 3fa26039-78cb-47d4-851a-cf871e1fed36(生成サイト:https://creator.nightcafe.studio/studio)  ふむ、とテーブルが静かになる。 「まあ体の再現度は一番近いかもな。あと、目つきが悪い」 「髪の毛、サラサラですねぇ。そして確かにスタイルは本物の恭子さんに近いかも。もう少し、ありますが」  葵と咲ちゃんの意見は当たり障りない。どうでしょう、と綿貫君が上目遣いで私を見遣る。 「首から下は確かによく似ている。作ってくれてありがとう。それはそれとして」 「はい」 「オチには弱かったわね」 「出す順番を間違えました」  だから言っただろ、と葵が肩を竦めた。まさかあんたの言い分が正しいとは思わなかったわ! 「しかし面白いな、生成AI。私らにも作れるんだろ?」  座り直した葵が綿貫君に問う。咳払いをした彼は、出来ますよ、と笑顔を浮かべた。 「さっき送った三つのサイトでしたら、どこでも簡単に作れます」 「よっしゃ。そんじゃあ試しに自分を作ってみるか。たとえ失敗しても誰かの恨みを買わなくて済む」  そうしてチラリと此方を見遣る。 「別に、恨んでなんかいないわよ」 「むしろ可愛いイラストも作って貰えて喜んでいたもんな」  くっ、我ながら発言が浅はか、かつあからさまだった。いいわよ、そう来るなら乗っかってやるっ! 「そうよぉ。可愛く作って貰えたら嬉しいに決まっているでしょう。私のイラストに迫るくらい、葵も自分を可愛く作ってみたら?」  私の言葉に、ほほぉ、と不敵な笑みを浮かべた。 「まあさっき綿貫君に作って貰った私も十分可愛かったがな。てめぇでてめぇを作ったらどうなるか、可愛く出来るか、試してみるのも面白そうじゃねぇか」  難しい物は使えない、と最初は弱腰だったのに、いざ実際に生成されるところを見ていたら楽しくなって来たらしい。あと、さっき大爆笑したせいで高揚しているのもあるでしょうね。あの、と咲ちゃんが葵を伺う。 「私も葵さんのイラストを作ってみてもいいでしょうか」  へぇ、咲ちゃんから見た葵かぁ。どんなものが出来上がるのかしら。大分興味があるわね。勿論構わん、と葵は白い歯を見せた。 「咲ちゃんもバチっと作ってみたまえ」 「しかし何だかちょっとサイバーパンクですね、AIで人を作るなんて。正確にはイラストを、ですけれど」 「まあなぁ、技術は日々進歩しているのだねぇ。だがたまにはこういう新しいものに触れるのも愉快だな。よし、使いこなしてみせちゃるぞ」  やたら張り切った葵が、そんで、と綿貫君に向き直る。 「三つのリンクの内、どれが一番お手頃だ?」 「意気込む割には簡単なところからいくのねー」  冷やかすと、当たり前だろ、と肩を竦めた。 「段階を踏んで慣れるのが定石だ。準備運動も無しに跳び上がったら足を攣っちまうからな」  思わずニヤついてしまう。知っているのよ、あんたが妙な例えを持ち出す時は浮かれているのだって。 「で、どれがいい?」 「上から二番目のリンクを踏んで下さい。そこでしたら、日本語で単語をいくつか打ち込めば生成してくれますよ」  よっしゃ、と早速葵がスマホに向かう。咲ちゃんもそれに倣った。二人が静かになる。 「ね、私もやってみたい。綿貫君が私を作ったのはどのサイト?」  しかし私を作った、なんてパワーワードを口にする日が来ようとは思わなかったな。 「一番上のリンクです。海外のサイトなので英語じゃないと作れませんが、中学レベルの単語力でも何とかなりますよ。わかんなかったらネットで検索すればいいし」 「本当に便利になったわねぇ。よーし、じゃあ私も葵を作ってみる!」 「アカウントの登録だけお願いします」 「了解!」  早速サイトを開いてみる。ふむ、確かに全部英語ね。なんのこっちゃらさっぱりわからない。と、その時。スマホがひとりでに自動翻訳を開始した。見て見て、と綿貫君に画面を向ける。 「勝手に日本語表記にしてくれた! 凄い!」 「便利ですよねぇ、ホント。その分、俺達人間は頭を使わなくなった気もしますが」  おぉ、鋭い指摘ね。確かに、と頷く。 「まあでも言葉の壁を乗り越えられたのはありがたいわ。おかげでこのサイトを使えるのだもの」 「そりゃそうだ」  そうしてスマホの操作を再開する。まずはアカウントねっと。しかしメールアドレスの登録程度とはいえ個人情報の扱いも軽くなったものねぇ。此処から紐付えたら私がこのアカウントでどんなサイトを閲覧しているのかとか、通販で何を買っているとか、全部バレてしまうのだもの。それでも便利を求めて、或いは楽しさを追い掛けて、平気で晒け出してしまう。それって。  ちょっと、怖いな。  その時、登録完了、と画面に表示された。できた、と再度綿貫君に画面を見せる。 「じゃあ生成に入りましょう。一日五枚までしか作れないので、慎重に進めた方がいいですよ」 「あら、そうなの? わかったわ」  テーブルに置いてお互い覗き込めるようにする。自分一人で作業をしている葵と咲ちゃんに比べて、綿貫君という協力者を得た私はちょっとズルをしているような気持になる。だけどまぁ、葵と咲ちゃんは日本語を使える手軽なサービスだけど、私は英語の本格的なサイトだもの。手助けして貰っても罰は当たらないわよね! そして顔を寄せているのは下心じゃなく手伝って貰うためだから! 全然、これっぽっちも、よっしゃっ! なんて思っていないわよ!  誰も何も言っていないのに私は心の中で言い訳を叫んだ。どきどき。
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