葵、旅行先の観光施設を調べてツボにハマる。(視点:葵)

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葵、旅行先の観光施設を調べてツボにハマる。(視点:葵)

 咲ちゃんは呑気に寝息を立て始めた。しかし思わぬ逆襲を食っちゃったな。そんでもって我ながら、耳が弱すぎる。そんなところが弱点だなんて、昨日恭子にちょっかいを出されるまで自分でも知らなんだ。困ったもんがバレちまったな。  それにしてもこっちが咲ちゃんに緊張させられるとは驚いた。これも一種の成長なのかねぇ。見事にしてやられたわ。チューを受け入れられたのかとマジでビビったし、くすぐりも完全に防がれた。新しいからかいのパターンかぁ。うーん、取り敢えず思い付くまではいつも通りにちょっかいを出そうっと。二人きりだから受け入れたふりをしていじって来たんだろう。皆の前で、カモン! とは出来ないはずだ。まっ、セクハラし過ぎない程度にしなきゃね。  さて、しおり作りの情報収集はまだ終わっていないのだ。んなこたわかっているだろうにお昼寝とは、咲ちゃんってばやっぱりさっきの温泉で湯あたりしたんじゃないのかしらん。体調が悪いわけでは無さそうなので心配はしておらんが、それにしたってまあまあ無防備な寝顔ですこと。本当にコッソリ奪ってやろうか、なんてね。  右手で咲ちゃんの頭を撫でながら、左手でスマホを取り出す。旅行で泊まる宿の周辺観光施設と買い出しをする店を調べる必要がある。まずは宿のホームページを開く。住所をコピーしてマップアプリの検索欄に貼り付け、と。ふふん、古い私でもこのくらいは出来るのだ。よし、早速地図の表示箇所が宿のところへ移動したぞ。あとは周辺のスーパーマーケットを調べれば買い出しの店はバッチリだぜ。  検索をしようとした手が、しかし止まる。……今、検索欄には宿の住所が入っている。此処にスーパーマーケット、と打ち込みたいのだが、そのためには住所を削除しなければならない。消したら表示されている地図は恐らく今、私がいるこの場所に戻る。それからスーパーを検索してもこの辺の店が表示されるだけ。意味、無いじゃん。だけど検索欄は空けなきゃならん。もしかして、住所を消しても検索結果として宿が表示されているから地図はそこから動かないのか?  うむ、あれこれ考えたところで答えを得られるわけもない。やってみなけりゃわからない。住所を削除し、スーパーマーケット、と打ち込む。再検索、っと。  あっ! 畜生! やっぱりうちの周辺のスーパーを調べやがった! いらねぇよ、こんな情報! 熟知してるっつーの。私が何年此処に住んでいると思っている。  ……スマホからすりゃ、そんなの知ったこっちゃないよな。ええと、しかしどうやって操作をすればいいんだ? 取り敢えず宿の住所を貼り付け直す。すぐに地図の表示場所が移動をする。ここまではいいんだ。順調なんだ。む、周辺の観光施設ってボタンがあるな。こっちも調べなければならないのだ。よし、スーパーは諦めよう。先に観光地を見てみるか。  メニューを選ぶと一覧が表示された。あれ? でも見た覚えのある字面の場所が多いな。そうか、アンケートの回答結果で書き込まれた場所だな。道の駅、海浜展示館、温泉施設に雑貨屋。ん? 牧場に行きたいって意見もあったよな。しかし周辺観光施設には含まれていない。ちょいと距離があるのかね。ポチポチ各施設を押していると、たまたまスーパーマーケットが地図上に現れた。ラッキー! だが、この名前はマジなのか? 笑いを堪えつつアイコンを押して確認をする。 『スーパードドンゴ』  声を出さずに吹き出す。咲ちゃんを起こすわけにはいかないもんな。だがこの名前は明らかに受け狙いだろ! 何でスーパーがドドンゴなんだよ。そんで、こんな名前の怪獣がいなかったか? ふふふ、皆には名前を伏せた状態で連れて行こう。何せ私しかこのスーパーの存在を知り得ないのだ。画像を見る限り、ふっ、でっかい看板が掲げられているな。今から皆のリアクションが楽しみだぜ。  思いがけず買い出しの店が決定した。さて、取り留めなく観光施設を眺めていたって仕方ない。旅程表(仮)のデータを開く。こいつと照らし合わせて決めていくか。  初日は秋野葉駅に集合だろ。午前中はほぼ移動に使う。昼飯は田中君が希望した道の駅を訪れる。そこからシーパークへ移動して、満足するまで滞在する。まあ夕方には閉まっちゃうから出発して、チェックインの十六時までには宿へ行かねばなるまい。うーむ、シーパークにいられる時間が大分限られるな。十五時のシャチさんのショーには間に合うだろうが、他の部分は全部見学出来るだろうか。希望としては、早目に昼飯を済ませて正午前にはシーパークへ入りたい。集合時間を九時としたが、もう少し時間を前倒しにしようか。あ、でもレンタカーは八時半に借りたのだった。時間の変更は面倒臭い。仕方ない、道が空いていることを祈るしかない。  んで、チェックインをして荷物を置いたらば、スーパードドンゴへ買い出しに行く。……マジで何を考えてこの名前を付けたんだ。私のツボにハマったせいで考える度に笑いたくなる。ともかく、ふっ、スーパードドンゴで食料と酒を買い込む。そして宿へ戻り冷蔵庫へしまい込む、と。あ、そうだ。海辺だったら砂浜で花火が出来るかね。スーパードドンゴ、に、ふふ、売っているかな。いや、あらかじめ何軒か店を回って見掛けたら買っておくか。両行は十二月だ、夏と違って売っていない可能性の方が高い。確保するのを忘れないようにしておこう。  で、買い出しの後は温泉施設へ全員で出向き、私だけは体調の問題と言って別行動をとろう。なにせ水着は恥ずかしいからな。恭子や咲ちゃん、田中君に何と言われようと、恥ずかしいものは恥ずかしい。見ないでおくれってのも無理だ。皆が風呂に入っている間、ぶらぶら散歩でもしていよう。終わったら宿へ戻り、調理及び宴会開始! あぁ、カブ炒めと、サーモンといくらの親子漬けをせがまれそうだ。あとは死ぬ程飲んで遊んで喋るだけ。いいね、最高の年末だ。  とまあ、初日の予定は元々ほとんど具体的に決まっていた。スーパードドンゴだけが、ふふふ、追加されたな。さて、問題は二日目だ。そのために周辺観光施設を調べる必要があったわけだ。旅程表(仮)には訪問先案が五つ載っている。その内、道の駅は前日に行くから変更しておかないとな。  まず最初の候補は牧場か。さっき周辺観光施設に出て来なかったんだよな。ネットで検索をかける。ええと、『パーク希望』って施設が牧場らしい。うっ、情報が増えて来たから紙にメモを取りたい。だが膝の上では咲ちゃんがすぴすぴ寝息を立てている。どうしたもんかね、検索結果をいちいち覚えてなどいられんぞ。しばし考え、そうか、と閃いた。スクリーンショットを撮ればいい。冴えているぞ、私。スマホの側面のボタンを二つ同時に押し、パーク希望の画面を収めた。よしよし。  で、次の候補は雑貨屋とな。これは五軒ほど店があるな。うむ、よくわからんから全部スクショに残してしまえ。訪問を希望している佳奈ちゃん、田中君、橋本君に選んで貰うか。最悪、初日に決めておくよう頼んだって間に合うし。しかし雑貨屋ねぇ。可愛い小物は好きだが旅行先で車を走らせてまで訪れる程の熱量は無い。まあ好きな人が選んだ店に行けば何かしらよさげな物があるだろう、いい感じだったら買うとするか。あとは年末だから営業状況次第だな。まあその辺は気にしていなかった体で三人にぶん投げるか。  そんで、三番目のガラス作り体験はっと。うーん、ガラス工房が二軒あるな。一軒ずつ、サイトを開いて確認する。一軒目はどうやら販売だけらしい。二軒目は、あぁ、事前予約制の体験があるな。うむ、気乗りしない。何故なら二日酔いで死に掛けの奴が発生する可能性が高いから。脳裏へ真っ先に親友の顔が浮かぶ。今日は飲むわよー! とワインをカッパカッパ飲み干した挙句、翌日はトイレを占拠する恭子の姿が見えた。皆も使いたいんだからゲロなら海に吐いてこい、と付き添うか。こっちが貰いゲロをしないよう気を付けないとな。そんでもしガラス作り体験を本当にするなら、最初から恭子を除外して予約を取るか。私も酔っ払いを介抱せねばならんので、同級生の五人で行って貰おうかね。万が一、恭子が元気だったら改めて二人きりで温泉施設を訪れよう。あいつの水着姿を見たいだけなのだが、やっぱり私も行ってみたいの、ともじもじ誘ったら絶対に断るまい。そしてお湯に浸かったら、実はお前の水着を拝みたかったんだ、と白状しよう。なに、入っちまったらこっちのもんだ。もっとも、あいつが風呂にすら入れない二日酔いだったら海辺でぼんやりしていよう。ふむ、諸々含めて結構いいじゃないか、ガラス作り体験。十二月三十日まではやれるみたいだし、二日酔いの可能性以外は特に問題は無いな。  あとは海浜博物館か。なんだ、温泉施設のすぐ傍じゃないか。初日の風呂の時に行かせるか? あ、でも閉館時間と照らし合わせると訪問は厳しいな。私一人で見学するか。或いは本当に二日目に恭子と二人で行動することになったら、風呂と合わせて此処を訪れるのもいいかもな。うーむ、しかしどの程度の二日酔いになるか、読めないと予定も立てづらい。散々恭子を槍玉に挙げたが、私もダウンしているかも知れない。せめて免許を持っている私、恭子、佳奈ちゃん、田中君、綿貫君の内の誰か二人は無事でいてくれ。でないと帰れないからね。  うーん、と大きく伸びをする。候補に挙がった施設の調べは済んだ。結局二日目の予定は大して固まらなかった。まああと一か月はあるのだし、焦る必要も無い。皆に投げかけ、意見を貰いながらのんびり決めていけばいいさ。  それにしても咲ちゃんはまだ起きない。どんだけお疲れなんだよ。手持無沙汰で何となく周辺観光地の一覧表を眺めてみる。今、スクショに収めたところ以外にも色々あるらしい。有名な日用品を取り扱うチェーン店が地元とコラボしたお店とか、それこそ雑貨屋とか、灯台、海鮮市場、キャンプ場やバーベキュー場、お寺に神社、巨大な運動公園、雄大な自然に見晴らしのいい丘、離れ小島に遊覧船、と。へぇ~、色々あるじゃないか。あ、このパン屋は恭子が言っていた美味しいお店か。すっかり忘れていた。買い出しのついでに寄れるかね。サイトを開き場所を確認する。スーパードドンゴのすぐ近くだった。よし、寄れるな。尤も、朝飯を食えるコンディションかどうかは怪しいけどさ。……だけど。  二日酔いになったってことは、それだけ楽しい時間をたくさん過ごせたって意味だと思う。翌日は死ぬ程辛いが、刹那の間でも素敵な瞬間を過ごせたのなら。  きっと、この私が言い出しっぺの旅行にも意味が生まれる。  そうなるといいな。そして、神様に胸を張って報告したい。旅行、私も一緒に楽しめましたよ、って。
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