交友関係は人それぞれ。(視点:葵)

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交友関係は人それぞれ。(視点:葵)

 戸惑っていると、ええと、と佳奈ちゃんが自分の髪の毛の先をいじりながら切り出した。 「私、三バカがいないと会わなかったのは葵さんだけなんです……」 「……え?」  それは、どういう意味……? 「気を悪くしないで下さいね!?」 「……話の展開による」 「いや私も葵さんと最近めっちゃ仲良くなったから今では二人きりで会えますよ!? ただ、ほら、聡太と別れていた間に※私を心配して会いに来てくれたじゃないですか。あれが私と葵さんだけで過ごした初めての日で、それ以前は三バカがいる席でしか会ったことが無かったんですよ」(※作者注:エピソード25薄っぺらい気がするんだよ。」以降参照https://estar.jp/novels/26177581/viewer?page=25)  そういやそうだ。佳奈ちゃんと二人きりだと話題が無くなりそうで気まずいな、と思っていっそ本人に伝えちまえとぶっちゃけたのだった。 「いやぁ、あの日の私は頑張った。君もお友達だから、一応声掛けだけはと決めたのだ」 「おかげでヨリを戻せました。ありがとうございます」  丁寧に頭を下げられる。いいよ、と優しく応じた上で。 「んで、それ以前は私だけハブられていたのか」  しっかり話題を戻す。違いますってば、と佳奈ちゃんは勢いよく手を振った。 「……ただですね。恭子さんとは、二人でランチや飲みに行きました。気が合うし、女子トークが出来る先輩と過ごす時間はとても楽しかったので」 「ねー、楽しいわよねー」  恭子が明るい声を上げる。そっちを向いて、目を細める。 「私と女子トークなんてしたことないじゃんか」 「葵、そういう話は興味無いでしょ」 「うん」  他人の恋愛事情なんてどうでもいい。誰と誰がくっつこうが勝手にしてくれ。勿論、恭子と綿貫君、佳奈ちゃんと橋本君、田中君と咲ちゃんは例外だが。未来永劫、幸せに過ごしておくれ。 「だからしないの」 「……」 「不満そうな顔をしないでよ!? あんたが嫌がるから避けているのに、何よその一回くらいは試みてくれてもいいじゃんか、みたいな唇の尖らせ具合は!?」  表情一つで気持ちを全て汲み取れるとは、流石我が親友。お見事。 「まあいいさ。興味が無いのは事実だから」 「だったら私に絡まないで。むしろ気を遣っていたんだからね!」  べーっ、と恭子は舌を出した。白いな……内臓が痛んでいるんじゃないのか? 「ともかく、佳奈ちゃんは恭子と二人で何度か遊んでいた、と」 「何十回か、だと思うわよ」 「何で追撃をかけるんですか!? それは言わなくていいでしょ!?」  恭子の追い打ちに佳奈ちゃんがツッコミを入れる。 「そうですか。さいでがんすか。何十回もでございますかぁ。私とは一回も二人で会っていなかったのに」  チクチクいじめると、だってぇ、と佳奈ちゃんは気の抜ける声を上げた。 「葵さんと何を話したらいいのか、わからなかったんですもん……」 「奇遇だな。私もだ」  キッパリ言い切ると、じゃあいいじゃん!! と恭子と佳奈ちゃんから鋭いツッコミが入った。肩を竦めて適当に流す。 「んでもって咲ちゃんは同い年のお友達か。そりゃあ二人で飯くらい行くわなぁ」  はい、と佳奈ちゃんが固い返事を寄越す。一方、咲ちゃんは首を傾げていた。どした、と頭を撫でる。 「私、何十回も、遊んでないです」 「……え?」  戸惑う機会が増えて来たぜ。 「私も佳奈ちゃんと二人で会うことはありました。同性で同い年のお友達は佳奈ちゃんだけだったので、とても嬉しかったのです」 「そうか。私は先輩だもんな」 「葵さんは頼りがいのあるお姉さんだから大好きです」 「照れるね。んで? 今、佳奈ちゃんが咲ちゃんより遥かに多く恭子と遊んでいたって聞いて、どんな気持ち? ねえ、どんな気持ち?」  焚き付けると、やめてぇっ、と佳奈ちゃんが縋り付いてきた。 「私じゃなくて咲ちゃんにくっつけよ。ほら、こんなにも能面みたいな無表情を浮かべられる人間はなかなかいないぜ」  その状態で、じぃっ、と佳奈ちゃんを見詰めている。 「そんな、非難するような目を向けないでよ!」 「非難はしていません。佳奈ちゃんが誰と遊ぼうと、佳奈ちゃんの自由ですもの。ただ、ちょっと寂しいなーって。初めての同性のお友達が、私より先輩の方が好きなんだなーってわかって、ジェラシーを感じております」 「ちょ、ちょっと待ってよ! 咲だって葵さんといっぱい遊んでいるでしょ!? 私ばっかり責めないでよぉ!」  その反論に、咲ちゃんはビクッと身じろぎした。そして、三秒程固まった後。 「……確かに」 「「「うおい!!」」」  咲ちゃん以外が揃ってずっこける。 「そう言えばそうだね。私、葵さんとはぶっちぎりで多く一緒に過ごしているよ。ごめん、佳奈ちゃん」 「「「素直!!」」」 「そういえばねぇ、こないだは二人で温泉にも行ったんだよぉ。日帰り瞬間移動の旅」 「めっちゃ満喫しているじゃん! 私が恭子さんとランチしているのをとやかく言えないじゃん!!」 「あと、こないだは水族館にも行ったの。そうしたら恭子さんと綿貫君が疑似デートをしていたんだよ。こっちも田中君騒動の直後だったから構っている余裕が無かったけれど」 「最早咲と葵さんもデートだよ!!」 「観覧車も乗ったもんなー。君は気もそぞろだったが」 「まあ、複雑な時期でしたからね……」 「彼氏が告白した女と二人きりで遊びに行った、って表現すると咲ちゃんも大概やべぇ奴だな」 「葵さんのことが大好きですから」  よしよし、と抱き締めソファに座る。咲ちゃんのお尻が再び私の太ももの上に帰って来る。うーん、至福の時。しかし、いやいや、と佳奈ちゃんが後を追って来た。 「咲! 話は終わり、みたいな雰囲気を出さないでよ!」 「え、終わりじゃないの? もう一回謝ろうか?」 「何でちょっと上から目線で来ているのさ!?」 「ごめんなさい。次から気を付けます」 「心が籠っていない! まあいいよ! 許す!」 「ありがとう」 「どういたしまして!」  佳奈ちゃんだけが荒い息を吐いていた。ふむ、確かに今、咲ちゃんから責めるような物言いを受けたのは可哀想だが。 「結局、私だけは君から積極的に誘われなかったんだなぁ」  しっかりと混ぜっ返す。ぐはっ、と佳奈ちゃんが胸を押さえた。心に刺され、我が言葉の矢よ。 「そ、それを蒸し返されるとそうですねとしか言えませんが……」 「まあ私も君と二人で会うのは緊張したからなぁ。実際、皆で会っている時は気を遣う必要が無い。何故なら放っておいても誰かが話をしてくれるから。それに乗っかればいいのだし、最悪黙ってその場にいるだけでも時間は過ぎる。だが相手と自分の一対一の場ではそうもいかない。どっちかが喋らなければ気まずい沈黙が訪れる。どうでもいい奴と過ごすのなら、その状態でも構わない。だってどう思われようが、嫌われようが軽蔑されようがどうでもいいからな。だけど君は私の友達だ。故にちゃんと楽しく、仲良く過ごしたかった。あの、君に会いに行った日は、ちゃんと話を聞きたかったしね。橋本君とやり直せば、なんて伝えるつもりは毛ほども無かった。ただ、佳奈ちゃんは元気かな、私らがいなくても君は平気でやっていけるに違いないがツラくらい見ておくのもいいかな、だったら気まずくても会わなきゃな、って。そんな心持で連絡したのを覚えているよ。実際、会いましょうって返事が来た時には緊張したがね。マジで何を話したらええんじゃ、って。だから先にぶっちゃけたもんな」  座ったばかりの咲ちゃんには悪いが膝から下ろす。そして立ち上がり、佳奈ちゃんの顔を覗き込んだ。上目遣いに此方を見返す。 「君は私のおかげだと何度もお礼を言ってくれた。だが、もう一度だけ、確認させてくれ。私があの日、君と会った意味はあったかい? ただの余計なお節介で、君自身の頑張りが実を結んだのだと私は思う。それでも、一本の髪の毛の先が当たったくらいの影響は、あったのかな?」  ふっと佳奈ちゃんは表情を和らげた。当たり前じゃないですか、と白い歯が覗く。 「何度でも言いますよ。私が一歩を踏み出して、聡太とやり直せたのは葵さんがあの日会いに来てくれたおかげです。おかげで自分の気持ちを見直せました。見ないよう、仕舞い込んでいた聡太への気持ちを、貴女が紐解いてくれたのです。ふふ、葵さんはご自分のことをひねくれ者って仰いますが、あの時は私も結構だったと思いません?」 「そうさなぁ。どっちかってぇと頑固者かな。意固地になって、やり直さない! って言い張っていたもの」 「あはは、そっか! 流石、本物のひねくれ者は違いますね?」 「言うねぇ。君のそういうところ、好きだぜ」 「ありがとうございます、先輩」  ふふっ、と笑う声がハモった。 「まっ、こんな風に仲良くなれて良かったよ。そしてさっきは意地悪をしたけどさ、あの日以降、二人きりで会ったことはあるもんな」 「そうですよ。聡太にやり直そうって言い出す勇気がどうしても持てなかった私が助けを求めたじゃないですか」 「こんなに頼りない奴に縋るのは間違った選択だと思うがねぇ。それこそそこに、恋バナ大好きお姉さんがいるってぇのに」  恭子を指差すと、丁度大欠伸をしているところだった。 「え? 私?」 「口元くらい手で隠せ。そうだ、それこそ恭子は佳奈ちゃんに声を掛けなかったのか? 橋本君から、佳奈ちゃんと別れたって聞いた時にはお前も心配していただろ」  うーん、と恭子は頭を掻いた。ちょっと意外な反応だな。 「連絡を取らなきゃなー、とは思っていたわよ? それこそしばらくお誘いも無かったから、気にはなっていたし。ただ、橋本君と別れたって聞いたら逆に会いづらいとも感じたわ。普段、恋バナで盛り上がっている分、自分達の話にも触れなきゃいけないじゃない。もしかしたら物凄く引き摺っているかも、或いは名前を聞くのも嫌だったりするかしら、なんて色々考えていたら葵が速攻で会いに行ったから私の出番は無くなっちゃった。その後、再告白現場に立ち会っちゃったけどね。いやぁ、あれはびっくりしたわぁ」  ふうん、と私は酒を手に取り口へ流し込む。 「恋バナ好きでも当事者となると触れていいかどうか悩むんだな」 「そりゃそうよ。友達同士でいたいから、気はちゃんと遣わなきゃ」 「恋バナなんてしないからわかんねぇよーだ」 「まだいじけているの? あんたがそういう話題は好きじゃないからだってあれ程言ったじゃない」  その時、あの、と咲ちゃんが手を挙げた。君は発言の前に挙手をするようになったな。偉いぞ、明確な意思表示でわかりやすいもの。
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