第2話 無しの少女①

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「だってだって、こんなにもいい匂いするんだぞー!」  騒ぐことで、中に居る者に気づかれると分かりにくい年頃ゆえか、出てきた者を見て子どもらは大声を上げた。 『あ、あ、あ!?』 「……聞こえているよ」  出てきたのは、女。と言っても、妙齢のではなくてほっそりした身体付きの、十六歳ほどの少女だ。顔立ちもまだまだ育ちが幼く、あどけない風貌である。子どもらは、初めて見るわけではないのだが……この少女が異質であると親などにキツく言い渡されていた。  人間に誰しも寄り添う存在……九十九が居ない少女なのだと。 『わあああああ!』  決して恐ろしい顔立ちではないのに、『無し』と言い聞かされてきた存在なため、恐怖心が急に沸いてきたのか。子どもらは逃げるようにその場から去っていった。  少女は少し驚いたように目を丸くしたが、すぐにそれを解いた。己の異質さなど、とうの昔から知っているのだからと。 「……あ、いけない。焦げちゃう」  そんなことよりも、と少女は家の中に戻り、子どもらが集まってきていた『理由』のところへと向かった。  釜戸が主な調理する場である煮炊き場。
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