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「……どうして?」
梁の頷きに、恋花は込み上げてくるものを感じてぽろぽろと涙を流した。男らがギョッと目を丸くしていても、気にせず涙をこぼしていく。
仕方のないことだ。幼い頃から、九十九が『無し』と受け入れていたのに、周りからは蔑まれていた生活を送っていた。それが、今更何故、恋花に打ち明けられても受け入れるのが難しい。
止まらない涙を拭うことが出来ずにいると、目元に温かいモノが触れた。
「恋花と言うのか」
梁ではなく、役人の指だった。温かいだけじゃなく、優しい指で恋花の涙を拭おうとしてくれた。必然的に顔が目の前にあったため、その距離の近さに恋花は驚いて涙が引っ込んでしまう。
「あ、の……?」
「名乗り忘れていたな。俺は、紅狼。李紅狼と言う。宮中で武官をしているものだ」
そして、彼は手を軽く振って、自身の九十九を顕現させた。女性体だったが、線が細いだけでなく動きやすい服装をしていたので武の心得があるように見えた。紅狼はすぐに彼女の顕現を解き、次は自分の眼帯を取って目を見せてくれたのだ。
「……紋様?」
そう見えるようなモノが、紅狼の隠された目に刻まれていた。目の色も右の普通のと違って、朱色に染まっていたことにも驚いてしまう。
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