第5話 九十九の隠し事

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 地面に足がつくと、奥の方が暗闇の中なのに青白く光っているように見えた。 『……あそこを見てくれ』  梁がまた手を引いて、その場所へ連れてってくれると。光の中に女性が浮かんでいるのが見えた。誰だろうと覗き込むと、初老の女性が浮かんでいた。記憶の彼方にある母に似ているが、もう少し年を重ねた女性。  そう、それはまるで。 「玉蘭殿!?」  恋花が言いそうになった時に、紅狼が声を上げた。  その言葉に、恋花はもう一度玉蘭らしい女性を確認してみたのだが、今日まで玉蘭だと思っていた梁の化けた年頃よりも随分と若い。だから、本当に祖母なのか信じ難かった。 「……奶奶(ナイナイ)?」  声を掛けても、寝ている彼女は返答もない。と言うよりも、聞こえていないのか起き上がりも何もしないのだ。ただ寝ているだけの、今までの玉蘭の趣味とは全然違うくらいは恋花でも分かる。 『……これは、封印だ。恋花』  梁は恋花の手をようやく離し、玉蘭が浮かんでいる箇所に触れても玉蘭は起き上がらなかった。 「……何者かに、施されたのか?」  紅狼が問いかけると、梁はまたひとつ頷いた。 『……いつからか。我が玉蘭に変幻(へんげ)していたかも定かではない。……だが、恋花をひとりにしないためにも、今日(こんにち)までの偽りの生活をしていた。恋花には異能(いのう)があるゆえに』
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