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先見でよく視る、先の世界では定番のおやつらしく、呼び方も『あんぱん』ということ。それくらいしか、恋花にもわかっていない。
「あんぱんと呼ばれるお菓子です。ただ、饅頭と似ているようで違います……。焼いてあるので」
『恋花の麺麭は凄く美味だ』
「……梁はずっと食べてくれてたの?』
『ああ。玉蘭に代わってからだが、いつからかは覚えていない』
「……そう」
いつも美味しいと口にしてくれていた祖母が、実は己の九十九だとはまだ信じ難い部分はあるが。それでも美味しいと言ってもらえるのは嬉しい。茶は少し温くなってしまっていたが、紅狼には上座に腰掛けてもらい、あんぱんの皿を手前に置く。
「……いただこう」
疑いはしているだろうが、きっと呪眼で確認しているので食べてくれるようだ。半分に割り、中の餡子の様子も確かめてから……紅狼は口にしてくれた。咀嚼する音を立てずに、上品に口を動かして飲み込んでいく。
すると、少しだが頬紅が浮かび上がり、勢いよく次のを食べ出した。
「……紅狼様?」
「美味い! いつもの柔らかい包子と違うのはわかるが、この香ばしさが堪らない! 餡ともよく合うし、上の胡麻との相性もいいな!?」
一瞬むせそうになったので茶を進め、勢いよく飲み干してくれたが表情は笑顔のまま。余程、今の麺麭を気に入ってくれたのだろう。
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