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『恋花の麺麭はすごいだろう? 献上物にも匹敵する』
「……大袈裟だよ」
「いや、その通りだ!」
だが、視て、試作を繰り返して再現しただけ。
異能ではあるが、食卓以外で誰の役にも立たない。
かつて、玉蘭が宮仕えしていたような素質も何もない。これまで、九十九が『無し』と呼ばれていただけなのに。今日の紅狼の来訪で一気に変わったくらいだ。しかしながら、これからどうすればいいのだろう、と恋花は不安になってきた。
己の九十九は、取り戻しても祖母の玉蘭は何者かによって封印されたまま。化けていた梁にも理由がわからない。
これでは、家族を失ってひとりで生活していくのと同じだ。
その不安が顔に出ていたのか、梁からまた手を握られた。
『恋花!? たしかに、恋花は独りになったかもしれない! だが、我が居る! なんならまた変幻する!!』
「……でも」
完全な独りじゃないにしても、人間として家に居るのは『独り』。その不安は、簡単には拭えない。もともと、明るい考えに向けない性格ゆえに、九十九を得ても自信が持てないのが恋花である。
そのことについて、ますます不安になると紅狼が茶をひと口飲んでから声をかけてきた。
「俺の本来の用件も果たせぬが……ここでの生活を危惧するならば、一つ提案がある」
「……提案ですか?」
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