第2話 無しの少女①

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第2話 無しの少女①

 神羅(しんら)皇帝の時代から数百年が経ち、争いは鎮んで世は太平となった。  争いの元となった『九十九(つくも)』。彼らの姿形や『能力』とされる異様な力は、個々によって違うが……どの人間にも等しく存在していた。  語らい、寄り添い、護り合い。  道ゆく人間らは、九十九らを顕現(けんげん)したり、内に取り入れたりと様々ではあったが、常に傍らに置いている世となった。  だが、現世の唐亜(とうあ)帝国の一角には、それが『無い』人間が一部いた。  住居区の端の端。少しばかり凝った作りの家屋が一軒。  煮炊きをしている刻限だからか、家屋から伸びた白くて細い湯気が、空へと昇っていた。もちろん、あちこちから煙が立ち上っていたけれど、幾らか甘いだけでなく香ばしい薫りがするのだ。  それを覗き見る、小さい影がいくつか。まだ幼い子どもらだった。 「……やっぱり、いい匂い」 「けど、ここ『無し』の家だろー?」 「だけどさあ? いい匂いするじゃん。何作ってんだろ?」 「ください言ったら、分けてくれるかなあ?」 「ダメだろ? 媽媽(マーマ)に怒られるぜ?」
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