第8話 祖母の弟子

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 しかし、崔廉に質問などをしている場合ではない。ここで働けるかどうかを、この女性に決めてもらわなくてはいけないのだ。恋花の異能である先見では、対象者の心情を夢で視る能力を可能にしている訳ではない。あくまで、先の世にある『麺麭(パン)』を作れるくらいなのだから。 「崔廉殿。彼女がここで働けるかの審査をしてもらいたい」  紅狼が間に立ってくれると、崔廉の目つきが少しだけ変わった。目は笑ってはいても、好奇の色が滲み出したのだ。あの目つきは知っている。梁が化けていた玉蘭が、恋花に向けてきた麺麭作りへの純粋な興味の表情と。あの時の中身は、梁なのか玉蘭なのかはわからないが……崔廉は、現役の料理人なのでそれは色濃く面に出しやすいのだろう。 「ここでか? 師父の孫だからって、あたしゃ容赦しないよ?」 「それは、彼女の品を口にしてからでいい。恋花、頼んでいたものは?」 「は、はい!」  梁に持たせていた包みを受け取り、布を外してから崔廉の前に差し出す。今朝早くに梁と一緒に作った、『あんぱん』だ。紅狼に食べてもらったのよりは少し小ぶりに仕立て、餡はたっぷりにしてある。  包子(パオズ)とは違う、焼いたそれに崔廉は驚いたのか……ひとつ掴んで、鼻まで近づけて匂いを嗅いだ。 「……なんだい、こりゃ? 胡麻が載せてあるけど」
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