第9話 麺麭の受け入れ

1/3
前へ
/268ページ
次へ

第9話 麺麭の受け入れ

 崔廉(さいれん)が、料理人らにあんぱんを配っても良いか聞いてきたので、もちろんだと恋花(れんか)は頷く。いくら彼女がここで働くことを許可しても、他の料理人らが納得するだろうとは思えないからだ。  (りょう)も配るのを手伝ってくれたのだが、それぞれあんぱんを不思議そうに見つめていた。無理もないが、先の世には当たり前の食べ物を、恋花が再現したとは誰も思わないだろう。まだ、その事実は伝えてはいないが。 「あんたら、ひと口でもいいから食ってみな! この子は、あたしの師父(シーフー)である玉蘭(ぎょくらん)殿のお孫さんだよ!」 「え??」 「あの玉蘭様の?!」 「……孫?」  余程有名なのか、祖母の名を崔廉が口にしただけでざわめきが広がっていく。今まで、ずっと玉蘭だと思っていたのは……己の九十九(つくも)である梁が化けていた姿だったけれど。それでも、恋花と共に麺麭(パン)を作るのは楽しかった。その彼女の身体は、家で封印していては何か起きた時に対処しにくいからと、今は大きさを変えて梁の内側に収めてある。  だから、恋花は次に居場所を作るとしたら、この場所しかないのだ。 「……(こう)恋花と申します。お世話になります」  静かにお辞儀しながら言うと、料理人らからは驚かれた。特に不作法なことはしていないのだが、何かを意外に思われたのかもしれない。  だが、顔を上げる頃には、彼らはひと口ずつあんぱんを食べていて、すぐに賞賛の声を上げてくれた。 「美味い!?」 「お、美味しい!?」 「蒸して……いや、焼いて? すっごく香ばしいし、中の餡と合う!?」
/268ページ

最初のコメントを投稿しよう!

189人が本棚に入れています
本棚に追加