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それまで見守っていてくれた紅狼は、仕事があるのか点心局を去って行こうとしていた。だから恋花は慌てて彼の前に立ち、深く腰を折ったのだ。
「ありがとうございました」
居場所になるかもしれない伝手をくれたのは、紅狼だ。玉蘭の封印を解くのが本題でも、あの街にいるよりずっと良い。噂が伝わっていないのか、この場所では恋花が『無し』だったと蔑む様子がないのだから。
しばらく、折ったままの姿勢でいると紅狼から頭を軽く撫でられた。
「特に何もしていない。麺麭作りに励んでくれ」
「は、はい!」
その温かさに胸がほんわかした気分になったが、惚けている場合ではないので作業に戻ることにした。
『黄油はいいのか?』
「今回は手早く作る方にするわ」
先の世では当たり前にある黄色い塊。今回はそれや、種である老麵を使わずに重曹や胡麻油で代用する方法にしようと決めたのだ。餡については、点心を扱う場所なので常備していることから、それを使わせてもらうことにした。
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