第10話 武官の訳

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 紅狼の恋花への思いは、最初はそのような印象ではあったが。人前で怖気もせずに、礼を披露するあたり芯が強い部分は残っているのだろう。そこは、玉蘭に変幻(へんげ)していた梁が鍛えたかもしれない。 『……我は思う。動くなら早めが良い』 「焦るな。望みがなくなったわけではない」 『……そうではあるが』 「玉蘭殿があのような状態なのだ。孫にその理由を教えずにいた訳もあるだろう」  その訳が、彼女の九十九に問い掛ければ済む問題ではなかった。梁には記憶が欠如していて、いつから玉蘭に成り変わっていたかを覚えていないらしい。それと、一度封印を解くのを試みたが、結界のような固さのせいで、弾かれたのだ。並大抵の術式でない封印に紅狼も驚いたが、恋花は沈んでいた。唯一の肉親に起きた事態を今まで知らなかったせいもあり、悲しみ以上の感情を得たのだろう。  だから、紅狼は恋花の異能の保護名目も兼ねて、後宮の点心局へと宮仕えを提案したのだ。玉蘭の弟子だった崔廉(さいれん)なら、恋花を邪険に扱わないと信じて。実際、見守っていたがその通りとなった。  なら、居場所を与え、玉蘭の封印が解ける糸口が見つかれば、紅狼を長年蝕んできた呪いへの解呪の方も兆しが見つかるはず。自分で提案したが、皇帝の方へはこれから報告予定だ。  どのように、反応を見せるかわからない。
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