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第11話 発酵無し麺麭
*・*・*
生地は麺麭の要と言ってもいい。
包子のふんわりしてもちもちした食感とは違う、甘さと香ばしさが独特の生地。黄油や老麵などがある場合だとそれが活かされるが、その場合だと『発酵』に時間がかかってしまう。
その欠点が今回の場合、よろしくないと思った恋花は重曹を使って、発酵をあまり必要としない生地にしようと決めたのだ。
『恋花、材料を入れた』
「ありがとう、梁」
己の九十九だとわかった、梁はとても手際がいい。祖母の玉蘭に化けていたこともあって、恋花のして欲しいことをよく理解している。あの玉蘭も、寝ていない間は恋花と共に麺麭を一緒に作ってくれていた。いつからかはわからないが、九十九が『無し』でいたお互いの溝を埋めるような、寂しさを紛らわす行為だったか。
だが、今は違う。
九十九が戻り、身内以外の他者に認められようとしていた。先見の能力は、夢を通じての麺麭作りの光景しか映らないので、現実を予見出来るものではない。見られなかった未来が、このような形になると恋花自身も予想外だ。武官の紅狼が訪ねて来なかったら、ずっと籠った生活を続けていただろうに。
『鍋は温めておくか?』
「お願い」
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