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生地の準備が出来、分けてもらった餡を包んだら鍋に薄くごま油を敷く。今回は窯がないので、鍋で『焼く』工程をするのだ。持参したあんぱんと同じまではいかないが、きっと美味しく出来るはず。そう信じて、恋花は生地に餡を詰めていった。
梁とすべて包み終わったら、鉄鍋の中に少し間を空けながら生地を並べていった。
ジュッ、と音が立つがこれでいい。火を小さなものにしてから、蓋をしてじっくり焼くのもコツだ。
「変わった作り方だねぇ?」
片面が焼けるまで、片付けを梁としていると崔廉が少し覗きに来てくれた。
包子と違い、鍋で直接焼く方法など普通の料理以外はないだろう。恋花とて、夢見で方法を知らなければ考えもしなかったものだ。
「……持参したようなものだと、窯が必要なので」
「ん? この釜じゃ出来ないのかい?」
「いえ。陶器を焼くような、窯です」
「……どう使うのさね?」
「鉄の板の上に、油を薄く塗って生地を置いて」
これまでの恋花なら、大人との会話を祖母以外は避けていた。九十九が『無し』の存在。神に愛されぬ、罪の子ども。などと、野次などを飛ばされる事が常で、同年代の友だちなどもいなかった。だから今、『有り』と言うことで普通に他者と会話が出来ていることが嬉しい。まだ出会ったばかりだが、紅狼の言う通りにこの点心局の人間は恋花を蔑んだりしなかった。
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