第13話 窯でないあんぱん

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第13話 窯でないあんぱん

 *・*・*  点心局は今まで慣れた自宅の厨房での仕組みとは違い、煮炊き場も竈門も段違いに荘厳できちんと整っているところだ。後宮であるが故に、当然ではあるが初回でいきなり恋花(れんか)のような市井(しせい)の者が触れると思わないのに。この場の(おさ)である崔廉(さいれん)は、恋花の作ってきたあんぱんの味を認め、すぐに作るように提案してくれたのだ。その期待を台無しにはしたくはない。  そのために、恋花は九十九(つくも)(りょう)と共に比較的手軽に作れる方法のあんぱんを作ったのである。仕上がりはまずまずだと思っている。 「……お待たせしました」  焼きたてなので、気をつけるように崔廉に伝えてから試食をお願いした。他の料理人らにも指示を飛ばしていたが、ほとんど恋花につきっきりで見学してくれていた崔廉は……とにかく、好奇の目を恋花に向けてくれた。あの封印されてしまった祖母の状態と同じ世代の女性から、このような扱いを受けるのは初めてだ。  数日前にあんぱんの匂いに釣られてやってきた子どもらの親は、恋花を『無し』の存在として関わるようにするなと、キツく言い聞かせるのがほとんどだったから。 「面白い作り方だねぇ。せっかくだから」  崔廉は軽く手を振れば、そこから淡い赤の光が生じた。光の中から小柄の少女が出てきて、恋花の前に立つと手を軽く振ってくれた。 『我は(えん)。崔廉の九十九よ』 「よ、よろしくお願いします」 『良い良い。しかし、内で見ていたがなかなかに手際が良いな。ほれぼれしそうになったわい』 『恋花だからな』
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