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梁が誇らしげに胸を張っていたが、恋花はとんでもないと首を横に振った。先見があれど、己など料理人と名乗れるほどでもない。ただただ、試行錯誤していただけでしかないのに。すると、崔廉からぽんぽんと肩を叩かれた。
「そんなことないさ。即戦力に使えるやつだとは思ってるさね。燕、一緒に食おうじゃないさ」
『是。良い香りじゃ』
姿は対照的だが、食べ方はそっくりだった。大口を開けて、かぶりつく勢いで口にしてくれた。少しだけ、ほっほと息を整えようとしていたがよく噛んで飲み込むと、二人とも顔を輝かせた。
「美味い!」
『美味だ。胡麻油の香ばしい感じが、生地と良く合う。餡をこう活用するとは』
「……ありがとうございます」
玉蘭に化けていた梁以外、今は席を外した紅狼を除く、初めての賛辞。しかも作りたてでこのように素直な感想をもらえるとは思わず、恋花はつい涙ぐんでしまう。梁が服の袖で拭いてくれたためはすぐに意識を切り替えることにした。
その表情を見て、崔廉も何かを決めたかのように頷いていたからだ。
「さて、最初はここにいる連中らのまかないにしようと思ったが、気が変わった」
「……と言いますと?」
「李氏がいた時に言ってた御方へ、献上しに行こう。皇妃候補の緑玲妃のところさね」
「こ、皇妃!?」
将来的に、皇帝の正妃となり得る寵愛を受けた女性。
たしかに、紅狼や崔廉の口からその女性の名は先程聞いたが……いきなり、この麺麭を献上したいと言い出されるとは予想外過ぎて。慌てて、恋花は崔廉の前で深く腰を折った。
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