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そこには何故か、陶磁器を焼くためのような釜戸までもが揃えられていた。鉄の蓋を開けて、やけどしないように厚手の布を手に巻き付けてから中身を取り出す。
香ばしい匂いの正体は、焼いた饅頭のようなもの。
だが、それを少女は違うものだと知っている。
「……うん。良い『あんぱん』だわ。夢通りに出来たかも」
九十九が居ない存在である少女──黄恋花ではあったが、それが『無い』代わりに特異な能力を所持していた。
夢見を通じ、先の世の光景を視て……その中の料理、主に『麺麭』と言うものを再現出来る能力。
今朝方も、それを視て、恋花は麺麭作りに勤しんでいたのだ。それを共に食べるのは、今のところ……両親のいない恋花には、祖母の玉蘭しかいなかった。
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