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第3話 無しの少女②
食卓の準備が整ってから、恋花は玉蘭を呼びに寝所へと足を運ぶ。育ての親でもある玉蘭は、暇があれば寝ていることが多い。
家の事をしないわけではないが、本人曰く、趣味らしい。大昔は宮廷で宮仕えをしていたようだが、満足に眠ることができなかったともよくぼやく。
しかし、恋花の能力を知ると、八つ時には必ず起きるようにしてくれている。美味い麺麭を食べるためであれば、きちんと起きるからだと。
「奶奶、おやつ出来たよー?」
「……んー?」
恋花が声を掛ければ、すぐに起き上がってくれた。くたびれた銀髪は長いが、年々量が減っている。年のせいだと玉蘭は前にぼやいていたが。
「今日はあんぱんだよ」
「……いただこうかね? さっき、なんか騒がしい声がしたけど」
「……近所の子どもたち。麺麭の匂いに釣られたみたい。私が出たらすぐに帰ったけど」
「まあ、仕方ないさね。あたしらは、『無し』だから」
人間であれば、誰もが寄り添うとされている……不可思議な存在の九十九。それが『無い』のは、ここいらだと恋花と玉蘭だけ。亡くなった恋花の両親、玉蘭には娘夫婦だったが彼らもまたいなかった。そう言う家系かもしれないが、恋花は昔よくいじめられていた時から諦めていた。己は、そのような存在なのだと。
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