レルネ城

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「市場調査は私の仕事ではありませんっ。殿下にその目で人の流れや価格を見てもらい、城下の現状を見てもらうことが目的ですっ」 ギルさんはケリーたちに言い返す。 やだやだと、私は公爵様を離してあげない。 「堅物っ。仕事人間っ」 ノーランはギルさんに言う。 「ギル、じゃあ、あなたはここに残って殿下の仕事が減るように尽力を」 ケリーはギルさんに言う。 「いつもしていますっ。午後からは施策会議があるので午後には戻られてください」 ギルさんは公爵様をおいていってくれるようなことを言ってくれて。 私は顔をあげて公爵様のお顔を見る。 公爵様は私の額に額を擦り合わせて、私は笑顔になる。 「あなたが予定をたてると分刻みのものになるから心にゆとりが持てないと思うの。よって、殿下には週に一度はサフィア様との時間をいただくのがいいと思うわ」 レヴィはギルさんに提案をする。 「会議はなるべく城内で。殿下の仕事を減らすのがあなたの仕事。殿下に仕事を与えるのがあなたの仕事ではないのよ?提言があるのならまとめておきなさい」 ケリーはどこか上司のようにギルさんに言って、ギルさんはケリーにどこか怯えた様子を見せる。 レルネの女戦士は強いらしい。 馬車がくると、ケリーは私と公爵様を乗せて車室を閉めて。 御者に口添えをすると馬車は走り出す。 とりあえず公爵様をギルさんからとれたようだけど。 「どこにいくのですか?」 私は公爵様に聞く。 「市場調査…かな?まぁ、城下の商店をサフィアに案内するでかまわないと思うけど。なにか提言があってのものでもなく、施策会議のための調査のはずだから」 公爵様はギルさんがなにをしようとしていたのか理解したように仰る。 「私がついていってもいいものなのでしょうか?」 「まったく問題ない。馬車の外に出てもサフィアにつけた従者たちが護衛にもなるだろうし。閉まってる商店も多くて寂れた街ではあるけどデートしよう?」 「寂れているのですか?建物は多く見えたのですが」 「建物の割には人がいないんだ。住民がいなければ商店の利用もない。住民がいなければ城下で金は回らない。住民をこの中央に戻すように他の街にも触れ回ったけど、どこまで戻るかはわからないな」 人手不足も住民が増えれば解消するのに。 一の壁を抜けて商店の並ぶ道を馬車は走る。 一の壁を抜けてすぐに馬車は止まるかと思ったのに。 どこまでいくんだろう?と車窓を見る。 公爵様が車窓に見える建物の説明をしてくださる。 商業区にも住宅は当然のようにあって広い。 広いけどほとんどの店がしまっている。 どこが開いているのかのほうがわからない。 王都に負けない大きな街。 馬車は私を観光させるように走る。 1周まわったかなくらいで、人の姿がちらちら見える広場で止まって、御者が車室の扉を開けた。 「ここでお待ちしています。殿下とサフィア様にはごゆっくり街を楽しまれるようにと」 「あいつらはついてこないのか?」 「後からくるとは言われましたが…。どこかにいるのではないでしょうか?」 御者は公爵様に答えて、公爵様は馬車を降りて、私を抱き上げておろされる。 どこかにいるのだろうか?と私はあたりを見回す。 とても綺麗な広場だ。 整えられた石畳の道が続く。 王都からの中央路の脇といったところか。 全盛期には行き交う馬車も多かったと思えるほど広い道。 このあたりの商店は開いている。 いろんな店がある。 引きこもってばかりでお父様の領地をゆっくり見たこともない。 綿花畑はわかるけど。 商店を見ていれば公爵様になにか言えたのに、私はなにもわからない。 公爵様に手をひかれて知らない街を歩く。 公爵様を公爵様とわかっているのか、よく振り返って見られる。 見られるだけで声をかけられることなく歩ける。 露店というものはあまりない、建物の店舗が多い。 開いているのは食料品のお店が多いだろうか。 「サフィアの街にはない食べ物なんてあるのかな?」 「街を歩いたことがないのでわかりません」 「引きこもりだったな、そういえば」 「引きこもりです。外は家の敷地内しかわかりません」 「引きこもりすぎだろ。普通は自分で商品を見て買い物したくなるものじゃないか?」 「外に出ると熱が出ます」 公爵様は私の額に手をあてて熱をはかられる。 「熱はまだ…ないと思う。王城での健康診断も異常はなかったし。ただ、気道が狭く肺が弱いかもしれないとは言われた。サフィアの街は綿の栽培をしていたから原因はそれかもしれない。城内でも建築はしているけど木屑や埃をあげているところにはいないし。療養になっているのかもしれない。胸が苦しくなるようなことはないか?」 公爵様がどこかお医者様のよう。 「大丈夫です」 「無理はしないように。抱き上げて運ぼうか?」 「大丈夫です。どこかのお店に入ってみたいです」 「ん。なにかサフィアにプレゼント買える店がいいな」 公爵様はあたりを見回される。 なにかに気がついたように微妙な顔を見せられる。 「ケリーたち、いました?」 私も公爵様が見ているほうを見てみた。 それらしき姿はない。 「うん。尾行されてるみたいだ。デートをさせたいらしい」 「公爵様がいてくださるならデートじゃなくてもいいのですが」 「僕も君を守ってくれる人がそばにいるほうが安心できるけど。尾行はされているようだし、デートしておこうか?」 私はうんと頷いて公爵様と知らない街を歩く。
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