レルネ城

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お昼には庶民の食堂と言えそうなところでご飯。 普通においしい。 デザートも食べてお支払い。 「おまえたちのも払えばいいのか?」 公爵様はそういえばと思い出したように問われた。 公爵様の視線の先を見ると、軽鎧を脱いだ男装の3人がいた。 すぐそこにいたのに気がつかなかった。 変装してくれているけど、言われたらわかる。 みんなかっこいい。 「知らないふりしていてくださいっ」 「サフィア様にバレたじゃないですかっ」 なんて公爵様はどこか怒られる。 「バレたじゃなくて普通に付き添えばいいだろ?」 公爵様は仰りながら3人のぶんもと支払いをされる。 「お2人を遠くから眺めているのが楽しくてつい…」 「なにかあれば護衛はさせてもらうつもりでしたから」 「早く食べろ。もういくぞ」 公爵様は急かして、3人は急いで食べてくれる。 私はこれ買ってと公爵様にねだってソフトクリームを買ってもらって食べる。 冷たくておいしい。 「外で待ってる。サフィア、こっち」 公爵様に手をひかれて、外のベンチに座ってもぐもぐ。 公爵様はそんな私をじーっと見られて、私は公爵様にソフトクリームを差し出す。 公爵様はぺろっと舐められる。 この人はどうしてそんなに色気があるのだろう?と公爵様を見てしまう。 と、なにか背後に気配がして。 私は黙って店のガラスの向こうに3人を見て、公爵様を見て。 確かに背後に感じるなと視線を動かす。 相手に気がつかせないように私は振り返らない。 私が気がついているとは気がつかせない。 ただ、それでも公爵様にソフトクリームを差し出したまま動きは止まってしまう。 公爵様は私の様子になにか気がついてくださる。 公爵様の視線は私の手。 私はソフトクリームとは逆の手に持っていた大理石の置物を、ひょいっと公爵様の目の前に投げる。 公爵様はそれを掴まれると、思いきり振りかぶって投げられた。 私の仕掛けの部品になるかもしれなかったものなのに。 投げるのはひどい。 握って殴れ。 なんて思ってる私の前、公爵様は立ち上がられて、私の頭上をその長い足が通り過ぎる。 なにかに当たった音はする。 もう一撃、くるりと回って公爵様は後ろ蹴りを私の頭上でされる。 ガツッと踵でも入ったかのような音がした。 護衛は公爵様でじゅうぶんなのかもしれない。 バタバタと店内から3人が飛び出してきて、そのまま私の背後にいた人を捕まえて手早く伏せさせた。 溶けてきたソフトクリームを舐めながら私は後ろを振り返る。 知らない男がケリーに後ろ手に拘束されて伏せさせられていた。 お店の人も遅れて何事かとお店から出てくる。 「なんの御用でしょう?かわりに私が承ります」 ぎりっとケリーは男の腕を捻って男は悲鳴をあげる。 「金持ちそうな兄妹だったからっ。すろうとしただけだよっ!」 男は喚くように声をあげる。 きょーだい。 まぁ、私、12歳で通用するらしいですし? 公爵様は素敵な男性ですし? ……私の夫なんて有り得ない。 どうせ。 私はソフトクリームを食べまくる。 「窃盗未遂で牢屋に連行します」 レヴィはポケットから手錠なんて出して、男の手首にはめて、腰と縄で手早く縛る。 縛るとケリーは男の背から立ち上がって男を立たせる。 「なんでっ、治安兵士がいるんだよっ!」 「私たち、治安兵士ではありませんよ?護衛兵士です。あなたみたいな人が増えないよう、治安強化を願っておきますね」 ケリーは男を縛った縄を握って、男を歩かせて連れていく。 「それでは私たちは先に戻らせていただきます。サフィア様はごゆっくり、ソフトクリームを召し上がってから戻られてくださいね」 ノーランはにっこり笑って、レヴィと一緒にケリーを追いかける。 レルネの女戦士は強いらしい。 あっさり一件落着。 お店の人も店内へと戻っていった。 公爵様もベンチに座り直される。 「置物、また買ってくださいね?」 投げるのはひどい。 「サフィア、君の危険察知能力はなんなんだ?」 「殿下もその人だとわかったじゃないですか」 「僕は君の反応を見てから、こっちを獲物のように見てる男に気がついただけだよ。投げつけてやったら、スリではなく、君を人質にとるつもりかのように近づいてきたから蹴ったけど」 「殿下の服の下、筋肉だと思ってるんです」 「蛮族を追い返すのに僕も戦えるように訓練したからね。筋肉だよ。彼女たちもギルも重責の任に着く者たちも一緒に戦って城を取り戻した。だからこの城は武力ばかりの集まりになってるんだ」 「ギルさんもですか?」 「僕の従者になってるみんなそう。兵士から役目を僕のまわりにうつしただけ。僕の家族だけじゃなく、そのあたりの職務の人間はみんな殺されたからね。新しく雇用できたところはあんまりいないし。兵士は王都からまわしてもらえるから」 兵士ならいる。 兵士しかいない。 「守りはかたそうです」 私が言うと公爵様は笑って頷かれる。 「まずはそこからだったから。今は君の父上が置かれた施策で蛮族に入り込まれてる様子はない」 守りはかたい。 治安はあまりよくはないけど、悪くもない。 街は悪い人がいても穏やかだ。
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