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帰りは、家までの道や運転が心配なおじさんの代わりに、一弘さんが運転することになった。
(これを予想して電車で来たんだって。マジで予知能力でもあるの?)
コレに明日のボクの荷物搬入の手伝いまでをひとセットにして、お礼に明日の昼に焼肉おごれって。しっかりしてる。
駐車場に向かいながら、おじさんがポツポツと言った。
「家に写真があんまりないんだ」
「え?」
「2011年に何度か千葉に行ったことも、いつの間にか忘れてしまったみたいでな。日記に書いてあったから、行った、ということは覚え直せたんだが、日記に写真がない」
「そうなんだ…」
「だから俺の中で、ラクトの姿の一番新しい記憶は、幼稚園の頃のなんだ。姉貴が、お袋のかわりにランドセル買えって呼びつけた時の」
「え!」
そんな前のボクの記憶しかないんだ。なら、おじさんの中じゃ久しぶりすぎて、わかんないよね…。
「姉貴は深緑色に決めてたけど、ラクトは薄紫色をずっと見てた。お前が欲しいのどれだって、それとなく聞いても言わなかったな」
おじさん、気づいてたんだ。
「うん。昔はママに逆らっちゃダメだと思ってたから」
「そうか。でも、その口ぶりからして、今は少しは言えるようになったんだな」
「言っても聞かないってわかったから、おじさんとこ来たんだよ」
「なるほど」
おじさんは笑った。前に見たのと同じ顔で。
「成長したなあ」
おじさんが車にスーツケースを積み込んでる時、一弘さんがコソッと聞いてきた。
「変わってなくて安心したか?」
この人、心まで読めるの?
「……うん。何でわかったの」
「オレもすっかり忘れられたことあるからさ」
「あるの⁈」
「一度だけな。でもいいさ、オレが覚えてるから」
「そっか」
ボクも夏休みのこと、絶対忘れない。
ガタン、と音がした。
スーツケースを落として足にぶつけたっぽいおじさんとこに、ボクと一弘さんは駆け寄った。
(了)
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