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「あー…疲れたよぉ」
私は病院裏まで迎えに来てくれた夫のRV車の助手席に乗り込んで、シートを少し倒して体を沈めた。
「お疲れ様、夜荒れたの?」
夫の涼真は私の髪を梳くように撫でながら微笑んだ。
涼真とは結婚して一年になるが、変わらず優しい笑顔に癒される。
私もその笑顔につられてニッコリすると、唇にピリッと痛みが走った。
「痛っ…」
唇が乾燥でガサガサして、唇が切れたのだ。
私は鞄の中からリップクリームを取り出して、唇に潤いを与えた。そして、キャップを閉めようとした時、手が滑ってキャップを落としてしまった。
「やだ、キャップが…」
「え?何、取ろうか?」
「ううん、大丈夫」
私は気怠くため息をついて、体を屈めて足元を探す。すぐにキャップは見つかったのだが、その近くにレシートが一枚落ちていた。
私がそれを何気に拾い上げると、涼真は慌ててそのレシートを奪い取った。
「え?」
驚いて涼真の顔を見ると、涼真は「ゴミ拾ってくれてありがとう」と、動揺した様子で耳の後ろを掻いた。
私はそんな涼真の様子に胸がざわついた。
「何か、隠してる…」
私は黒田夫婦のことがあったばかりなので、涼真の怪しい反応に"女の影"があるのでは?と不安になる。
何のレシート?ホテルなの?昨夜、私がいない間何をしていたの?
私は涼真を睨んでいたのだが、徐々に涙で視界が霞んでくる。
「ただのゴミだよ、泣かないで…」
涼真が私の涙を親指の腹で拭って、眉を下げて私を見つめた。
そして、小さくため息をついて困り顔で笑った。
「俺、間抜けだな…」
涼真はそう言って、自分の鞄の中からラッピングされた小箱を出した。それは私のお気に入りのジュエリーブランドの物だった。そして、レシートの店名だけ私に見せて「もうすぐ結婚記念日だろ?サプライズしようと思ってたのに…」と、残念そうな顔をする。
私は、疑ってしまった罪悪感と、プレゼントを用意してくれたことの喜びとが入り交じった複雑な気持ちになったが、浮気じゃなかったという安堵感が一番大きかった。
「良がっだぁー…」
私は涼真の胸に顔を埋めてわんわん泣いた。
「ちょ…どうした?何があったのさ~?…ヨシヨシ疲れてるんだね…ほら、早く帰って寝ようね」と、涼真は私の背中をポンポンと宥めるように優しく叩いた。
私は安堵感と涼真の優しい声と温もりに包まれて、意識を手放した。
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