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黒田は苦痛の表情を浮かべながら、時折深く息を吐いて、少しでも痛みを逃がそうとしている様子が窺えた。
「あの、黒田さん――…」
私は、祥子という女性が会いたいと言っていることを伝えた。すると、黒田は目を見開いて「祥子が?」と驚いてから、直ぐに顔を顰めた。
「あのメンヘラ女…別れ話に納得できないからって職場近くまで来て、急に車の前に飛び出しやがって…それをよけて俺はこんなことになったんだ!…っく」
黒田は痛みに悶えながらも、怒りをあらわにしている。
「お、落ち着いてください…」
鎮静剤の効果も弱まってきているのだろう。私は興奮し始めた黒田を宥める。
「もうお前とは終わったんだ!二度と顔見せるなって帰してくれ…」
黒田がそう言ったので、私が「お帰りいただきますね…」と静かに告げて振り返ると、病室の入り口に祥子の姿があった。
「政春…」
しまった!と思った。祥子は私の後を着いて来ていたのだ。
なんて非常識な女だ。
「勝手に困ります…」
本人も会う気はないというし、このまま会わせるわけにはいかない。どうにか帰ってもらわなくては…と思うと同時に、でもどうやって?と頭をフル回転させる。
だが祥子は、そんな私の静止を無視して強引に黒田のベッド脇へと詰め寄った。
私は慌てて身を挺し、祥子が黒田に近づきすぎるのを防ぐが、祥子はそんなことなどお構いなしに話し始めた。
「別れたくないの…政春、愛してる…私、裕佳よりも、あなたのことずっと理解しているでしょう?」
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