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「えーっと…」と、動揺する私に、エレベーターから降りてきた女は深々とお辞儀をした。
「黒田の妻です。この度は主人がお世話になりまして…」
私に挨拶をすると、黒田の妻は問いかけに答えない祥子を一瞥して「こちらの方は何故ここに?」と、不自然なつくり笑顔で今度は私に尋ねてきた。黒田の妻のそれは明らかに怒気をはらんでおり、私は蛇に睨まれた蛙のように固まってしまった。
「それは…」
私はどうにか取り繕おうと思考を巡らせるが、得策は思いつかなかった。
そんな間に、祥子はエレベーターのボタンを押していた。この階に待機していたエレベーターは直ぐに扉を開けた。そして、祥子は黙って逃げるようにそこに乗り込んだ。
「ちょっと、祥子!逃げるの?」
黒田の妻が祥子に詰め寄るのを私は必死に止めようと、エレベーター前に立ちはだかった。
「黒田さん!…入院手続きを…お、お願いしま…あっ」
黒田の妻の怒りは瞬間湯沸器のごとく瞬時に沸き上がって、祥子の胸ぐらに掴みかかる。私は凄い力で押しのけられて、尻もちをついた。
あまりに一瞬の出来事に、私はほんの少しの間放心してしまった。
ハッと我に返ると、祥子がエレベーターから引っ張り下ろされていた。
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