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見るに堪えない女の修羅場だ。
平手打ちに髪の引っ張り合い。それから、泥棒猫だのブスだのマグロだのと罵り合う。
私は二人を引き離そうとするが、感情的になっている人間にはまるで敵わない。だが、私もだんだんと腹が立ってきた。
どうして私がこんな目に?
お尻がまだジンジンと痛む。
つい先ほどまでは、静かで平穏な夜勤のはずだったのに…
不倫問題を病院に持ち込んで、さらにはこんな夜中に…
「何の騒ぎだ?」と、動ける患者がチラホラと病室から顔を覗かせている。
森本がそんな患者の対応をして、謝罪して回り、部屋に戻るように声をかけていた。
私の堪忍袋の緒はブッチリと切れた。
「いい加減にして!ここ病院ですよ?今何時だと?みっともない争いは他所でやって!」
自分でも驚くほど大きな声が出た。
私の怒号と同時に「どうした?」と、警備員と当直医が駆けつけてきて、辺りはシンと静まり返った。
黒田の妻はヘナヘナっと床に座り込んで泣き出し、祥子は乱れた服を直しながらエレベーターの降下のボタンを連打している。
そんな静かになった空気を切り裂くようにまた不穏な叫び声が聞こえてきた。そして、それとほぼ同時に心電図モニターのアラーム音が鳴り響いた。
「ダメ!動かないで!あなた、死にたいんですか?」
それは濱田先輩の声で、詰所の隣の黒田がいる病室からだった。
私は当直医と顔を見合わせて、急いでその病室へと向かった。
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